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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 12/14

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

12「あの人は特別だよ」その初老の男性に会ったのは、昼の育児を担当して三週間ほどが過ぎた頃である。チーコが昼寝から覚めてから三時過ぎくらいに買い物に出かけ、スーパーの脇にあるベンチで一息入れていると、ハンチングを被った初老の男性が通りかかり、気安く話しかけてきたのだ。「何だぁ、女房に逃げられたのか。兄ちゃんも大変だぁ」「違いますよ、別に逃げられてません」男性の声が異様に大きかったので、トモローは慌てて否定した。どうやら昼間から一杯やっているようだ。「俺も昔、逃げられたことがあってなぁ。この子よりは大きかったけど、まだ小さいガキを置いていかれて、途方に暮れたことがあったわ。まったく女ってのは勝手だよ」トモローの話をロクに聞かず、初老の男はなぜか千円札をトモローに握らせようとした。「いやいや、違いますから。ホントに違いますから」「いいから……その子に、何かうまいもんでも食わせてやってくれ」「この子、まだ物が食べられないんで」そう言って千円札を押し返したものの、初老の男は最後まで納得していないようだった。そればかりか、去り際に「逃ぃ~げぇぇたぁ女房に~未練はなぁいぃがぁ」と苦しげな声で唸り続け、ムダに周囲の目を集めていた。はるか昔に聞いたような記憶があるが、あれは何