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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 11/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

11の若いお母さんは、どういうわけかヒステリックに叫んだのである。「いいです、いいです! そのままにしといてください!」言葉こそ丁寧だが、その中年男性に子供の玩具を触られることがイヤで仕方なさそうにも聞こえる口ぶりだった。けれど玩具を拾うためには、お母さんはハンドルを押さえている手を離さなくてはならない。短い間とはいえ、子供を不安定で危険な状態にしなければならないのだ。「別に病気なんか持ってないからさ」その男性はウンザリした顔で玩具を拾い、そのお母さんに手渡した。「あ、すみません」若いお母さんは、ごく当たり前に礼を言っていたが──その顔を見ると、あんなにもヒステリックに叫んだのはなぜなのか、トモローにはわからなかった。人の手を煩わずらわせるのが、どうしてもイヤだったのか。それとも本当に中年男性のことを、汚い存在だとでも思っていたのか。あるいは、見ず知らずの人間と関わりたくなかったのか。どうとでもとれるが、あの中年男性が気分を害したのは確かだろうと思う。トモローの見る限り、彼は服装こそはラフだったが、決して怪しげな雰囲気ではなかった。不潔な感じもしなかったし、いわば〝普通のおじさん〟で、そんなにも拒まれるような部分はなかったと思える。