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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 5/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

「はいはい、いっぱい作ろうね」チーコに言われて、トモローはプリン作りに集中した。砂場の縁に一列に並べて作ると、ちょっとばかりシュールな風景になる。ところが──気がつくと赤い髪の青年も、持ってきていたプリンの空容器(思えば、砂場遊びの必須アイテムである)で、砂プリンを作っていた。「ほら、エーちゃん……こっちもプリン」それを見て男の子は、いくどとなく体を上下させた。その屈伸運動のような動きが、どうやら彼の喜びの表現らしい。微笑ましい光景だが、父親の声がやたら低くて押し殺したような感じなのは、いかがなものか。その息子の様子に気を良くしたのか、青年はトモローのように、いくつも砂プリンを並べ始めたが──その最中に、彼が横目でチラチラとトモローのプリンを見ているのに気づいた。(うわっ、この人、勝負してるよ)妙にキビキビした動きでプリンを量産しているところを見ると、彼がトモローのプリンの数を意識しているのがわかる。何だかよくわからないが、数で負けるのがイヤらしい。(面倒くさい人だなぁ)どんな些細なことであれ、とにかく人には負けたくないと考える人は、どこの世界にもいる。ある意味、単純でわかりやすいとも言えるのだろうが──残念ながらトモローは、つまらないことで人と張り合うのも苦手だった。