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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 12/14

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

12るか、十分にわかっているんです。でも、どうしても……子供の時に、私をバイ菌扱いした子たちと、その子たちが重なってしまうんですよ」小暮さんの気持ちは、それなりにトモローにも理解できた。たとえば大人になった今、仕事に追われるような生活をしている限り、再び子供の世界に戻ることはない。遠くから眺めて「まったく、近頃の子供は……」なんてボヤいていれば、それなりに格好もつく。けれど子育てをしていると──それも、自分が中心になってやっていると、気づかないうちに、子供の世界に入り込んでしまっているものだ。どうしても自分の子供時代を思い出し、その時に感じていた寂しさや悲しさを、違った形で認識してしまうのだ。たとえばトモローも、チーコが生まれて大きくなってから、母親のことを悲しい気持ちで思い起こすことが多くなった。母親は、トモローが物心つかないうちに家を出ていってしまったのだが、以前は一方的に母親だけを悪者にすることに抵抗を感じていた。まるで欠席裁判をするようで、決して気持ちいいものではなかったのだ。けれどチーコが大きくなってから、それまで自覚したことのない別種の悲しみを感じるようになった。自分がチーコをかわいいと思い、愛すれば愛するほど──自分には、母親を引き留めるだけの力がなかった……ということが、今まで以上に胸をしめつけてくるようになったのだ。