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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 13/14

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

13きっと母親にも、それなりの理由があったに違いないとは思う。けれど幼かった頃の自分の笑顔には、母親にその理由を乗り越えるだけの力を与えることができなかったのだ。そう思うと、一抹の虚しさを覚えるが──そんなふうに感じるのも、自分がチーコの笑顔に無限大と言ってもいいくらいの力をもらっているからに違いない。本当に、この子のためなら、自分は死んでもいい。「私……どうしたら、いいでしょうか」小暮さんの声に、ふと我に返る。「前も公園で、この子の頭から砂を掛けた子がいたんです。その時、頭が真っ白になって……その子のことを、本当に殴ってしまいそうになりました。もちろん、ぐっと我慢しましたけど」「頭から砂を? そりゃひどいですね。その子の親は、近くにいたんですか?」「いたんですけど、別のお母さんと話に夢中になってて、ちっとも注意してくれなかったんですよ」トモローは、以前に公園で見かけた若い母親のグループを思い出した。そういう親に限って、こちらが注意すると、凄まじく不機嫌になったりする。「私……いつか大変なことをしてしまいそうで、怖いんです」今までで最も小さな声で、小暮さんは言った。ふと見ると、その眼は涙で潤んでいる。「冗談でも、そんなバカなことを言っちゃいけませんよ」