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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 5/14

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

言い訳にしても、あまりうまくないな……と思った。そんなのが通るなら、世の中の犯罪の半分は起こっていないだろう。数十秒の沈黙が続いて、小暮さんは言葉を?げる。「斉藤さんは、子育てをしていて苦しくなることって、ありませんか?」「そりゃあ、少しはありますよ」あまりチーコの前ではしたくない話だが、そんなことはトモローにだってある。たとえば、チーコが昼寝をしている間に小説を書いていると、調子に乗っている時に限って、チーコが早く目を覚ましたりする。そんな時、あと三十分、どうして寝ていてくれないのだろう……と心から思うし、舌打ちしたくなるような気分になることもあるのだ。けれど、それでもチーコの寝ぼけた顔を見るとかわいいと感じるし、小説を書くことで得られる喜びと、チーコが運んできてくれる幸せは別のものだと思っている。だから、自分のしたいことが思うようにできないからと言って、それを辛く思ったりするのはお門違いのような気もしていた。そうまでして自分の夢を追いたいなら、初めから結婚もせず、子供も作らず、一人で頑張ればいい。けれどトモローは、美智子と決めているのだ。ちゃんと親になって、仕事でも成功して、楽しく暮らして──そんなふうに幸せを丸齧りしながら、イッヒッヒ……と顔を見合わせて笑おう、と。けれど小暮さんの悩みは、そういうものではないようだ。