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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 11/14

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

11兄貴は奥の部屋で服を着替え、洗面所でうがいと手洗いをした。その間に冷蔵庫から刺身の大皿が取り出され、テーブルの上にセットされる。ついでに兄貴の大好物のビールの缶も、いくつか並べられる。「あれ、グラスが一つ足りないみたいだけど」大人はみんなビールを飲むから、四つなければいけないグラスが、三つしか出ていない。「あ、いいの、いいの」義姉がそう言った時、兄貴が洗面所から戻ってきたかと思うと、まっすぐ流し台に向かった。何をするのかと見ていると、大きなコップに水道水を注ぎ、立て続けに何杯も飲み干した。「あれ、兄貴……どうしてビールの前に水を飲んじゃうの」ビールは、なんと言っても最初の一杯がうまい。一息に流し込み、それが渇いた喉に染み込んでいく感覚がたまらないわけだが──その前に水を飲んでしまうと、ビールのもたらす快感は半減してしまう。いや、十分の一くらいになってしまうと言ってもいい。「あの人、ビールはなるべく飲まないようにしたのよ」「へぇ、何で?」「何でもヒトデもねぇよ。見ろよ、この腹」部屋に入ってきた兄貴が、自分の丸い腹を叩きながら答えた。「完全にビール腹だよ。夏に景気よくやり過ぎたな」