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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 15/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

15言っていたように、面白おかしいことを何より優先して、その子の心をまったく思いやってやらなかったのだ。そんな扱いをされながら学校に来ていて、あの子はどんなに辛かったろうか。それを自分の子供から聞かされた親たちは、どんなに悔しかっただろうか。(いけね……これじゃ、武井さんのことは笑えないや)不意に滲にじんだ視界を指先で拭いながら、トモローは思った。自分が小暮さんのことを気にしていたのは、きっと彼女と、いじめられていたクラスメイトを重ね合せていたからだろう。あのクラスメイトがどこでどうしているかわからなくなった今、少しでも明るさを取り戻していてほしい……と、加害者のくせに小こ狡ずるく考えているから、小暮さんのことが気になっていたのだ。けれど、自分は小暮さんにも、何もしてあげられなかった。せっかく相談されたのに、役に立つことを何も言ってあげられなかった。そう思った時、正面から冷たい風の塊がやって来て、トモローの髪を大きくなびかせた。「ちょんまげ、ちょんまげ、ちょんまげマーチ……」その風に向かって自転車のペダルを強く踏み込みながら、出せる限りの大声で歌う以外、トモローにできることはなかった。(つづく)