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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 2/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

なっていないって言うか」そう呟くと、武井がトモローの肩を叩いた。「そりゃあ、しょうがないでしょう。だって国同士だって、意見が合わないからってケンカばっかりしてるんスよ? 簡単に話がつけば、戦争なんて起こってねぇッス」まったく、そのとおりである。「だから、気を紛らわすしかないんじゃないスかね。まぁ、正直に言うと、その場で歌うってのは、ちょっと無理があるかもしれないッスけど」「やっぱり……無理があるかな?」「そりゃあ、頭に血が昇った時に冷静に歌が歌えるような人は、最初っから、そんな悩みを持たないんじゃないッスか」「それなんだよなぁ」たとえば、どうにもならない悲しみや苦しみから、ほんの一時だけ心を逸らすためなら、この〝一曲作戦〟も有効かもしれない。けれど、瞬間的に燃え上がる感情を抑えるのには、いささか不向きのようにも思える。武井の言うとおり、頭に血が昇った時にでも歌が歌えるくらいなら、すでに感情のコントロールが十分にできている……ということだからだ。「それにしても、やっぱり子供の頃の経験って、デカいんスね。大人になったら、何でも笑い飛ばせるようになるってわけじゃないんスねぇ」どこかしんみりした声で武井は言った。