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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 5/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

のためには、いろんな賞に出すんじゃなくて、どれか一つか二つに絞って……」「いや、ミッちゃん、わかってる。全部わかってるんだ」美智子の言葉を、トモローは途中で遮った。彼女の言いたいことは、本当にわかっている。自分だって、それには十分に気づいているのだ。文芸の世界は、いつでも新しい才能を求めているらしく、多くの文芸誌が新人賞を設けている。純文学、娯楽小説、ミステリー、SFやホラー……と、多岐にわたるジャンルがあるが、さらに短編専門、長編専門の賞と分類されるので、まさしく応募する賞に困ることはない。入選した時の賞金の違いまで考慮すれば、どれに狙いをつけるか悩むくらいだ。本来なら美智子の言うとおり、その中から一つか二つの賞を選んで、じっくりと腰を落ち着けて頑張るべきところだろう。けれどトモローには、賞を絞りきることができなかった。もちろん得意なジャンル、挑戦したい分野はあるが──どうしても、あの賞の次はこれ、その次は、こっち……という具合に、いくつもの賞に応募しようと考えてしまうのだ。それこそプロでもないのに、数か月おきの締め切りに追われているような状態である。それはやはり、早く結果を出したいという気持ちに駆られてしまうからだ。もちろん主夫という立場に不満があるわけでもないし、やりがいも感じているが、いわゆる世間的な〝肩書き〟のようなものを求める気持ちが、どうしてもなくならないのだ