tomorou023

NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 8/16

電子ブックを開く

このページは tomorou023 の電子ブックに掲載されている8ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

けれど──その日はワープロに向かっても、なぜか調子が上がらなかった。ストーリーは組み立ててあるものの、いざ書く段になると、細かいところの煮詰めが足りていないことに気付いたのだ。(こんな時は、自転車で走るに限る)しばらく悪戦苦闘した後、トモローは思い切ってワープロの電源を切った。小説を書くという行為は、やはり計画どおりに進められる作業ではない。スラスラと流れるように文章が出てくるような時もあるが、どうしても行き詰まってしまって、先に進めなくなる時もあるものだ。そういう時は気分転換をして、頭の中を整理するとよいのだが──トモローの場合、自転車で走り回ると、いい感じに考えがまとまることが多かった。もしかすると、歩く以上のスピードで移動することで目から入ってくる情報量が多くなり、その処理のために頭の回転速度が上がって、それに引っ張られるように、小説で使うための思考回路も速くなるのかもしれない。トモローはアパートの部屋を出ると、とりあえず駅の方に自転車を走らせた。そんな時、つい足を向けてしまうのは、やはり賑やかな場所だ。駅の近くに出ると、まず本屋に入り、何冊かの本を立ち読みした。時間は三時を少し過ぎたところで、店の中にはトモローと同じくらいの年齢の男性は、ほとんどいなかった。やがて別の場所に行きたくなって本屋を出たところで──いきなり近くを通りかかった