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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 11/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

11居酒屋で薄いハイボールを舐めながら、ゴローは口を尖らせて言ったものだ。「いやいや、それはないよ。それくらいのこと、普通は俺にも教えてくれるもんだろ……三十年以上生きて初めて聞くとか、あり得ないって」「おまえは知らない方がいいと思ったんだ。おまえは子供の頃から神経が細かったし、おまけに口も軽かったからな……親父の前で口走ったりしたら、ブン殴られてたぞ」確かに親父の前で母親のことを何か言ったりしたら、さぞかし怒られていたに違いない。いっそ完全にタブー扱いにしておいた方が、家の中の平和は保たれたことだろう。「そうか……俺たちの母さんって、ホテルを経営してるんだ。何かすごいな」それまで漠然としたイメージしかなかった母親像に、わずかな方向性のようなものが与えられたような気がした。そのホテルがどの程度のもので、和風なのか洋風なのかもわからないが、何となく着物を着て接客しているのではないか……と思える。テレビなどで見ると、いわゆる女将というのは、そういうイメージだ。「そのホテルっていうのが、厄介のタネだったんだよ」教えられたばかりのゴローが、まるで何もかも知っているような口調で言った。「そのホテルを作ったのは、俺たちの爺ちゃんなんだ。つまりオフクロは、そこの娘だったんだけど……お兄さんがいたから、そこを継ぐとか何とかって話には、関係なかったらしい。だから東京に出て来て、幼稚園の先生をやってたんだってよ」母親が幼稚園の先生だったというのは、トモローも聞いたことがある。