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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 3/14

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

3「どうしたんだよ、兄貴……何か変な感じだけど」「そうか? 別にいつもと変わんねぇけど」そう言いながらゴローは、広島で撮ってきた写真を取り出して、トモローに見せた。「へぇ、もう現像できたんだ」「こんなの、一日あれば余裕だよ……で、これがオフクロだ。あんまり昔と変わらねぇな」ゴローの差し出した写真を手に取り、トモローはしげしげと眺めた。(なるほど、想像どおりだな)父親と過ごした家にも、母親の写真が数枚だけ残っていた。それで幼い頃から、トモローは声さえ覚えていない母親の顔を見ていたのだが──兄貴に見せられた写真は、その頃の母親と大きく変わりはなかった。若い頃に比べれば、それなりに老け込み、身体全体の肉付きが良くなっているようだが、浮かべている表情は同じだ。少しくらい眉をいじったり、化粧の方法を変えたりしても、そもそもの顔は、たいして変わらないものだ。「こう言っちゃなんだけど、すごく元気そうじゃないか。癌だって言うから、ゲッソリやつれているかと思ったのに」「俺も、てっきり病院にいるのかと思ってたんだけど、普通にホテルで働いてたんで、ビックリしたよ。むしろ普通のおばさんより、元気なくらいだった」けれど病気というものは、たとえ何であれ、わからないものだ。元気だと思った数日後に、急に状態が悪くなってしまうようなことはいくらでもある。