ブックタイトルNHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー
- ページ
- 2/14
このページは tomorou028 の電子ブックに掲載されている2ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは tomorou028 の電子ブックに掲載されている2ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
朱川湊人,主夫のトモロー,家族小説,NHK出版,WEBマガジン,イクメン,斉藤知朗,花まんま,直木賞
2「いやいや、謝ることなんてないよ。ちょっとだけ待って」残念ながらトモローは、キーボードを見ずに打つなんて気の利いたことはできない。「ミッちゃん、おまたせ」切りのいいところまで書いて、ようやくトモローは顔を上げて美智子を見た。「最近、調子がいいみたいじゃない」「そう言われてみたら、そうかもね……何だか文章が、スラスラ頭に浮かぶんだよ」他人事のように言ったが、それがなぜなのか、トモローなりに理解していた。小説の内容が、これまでと趣が変わっているからだ。むろんミステリーであることに違いはないが、今まではトリックの奇抜さや、いかに風変わりな探偵を作り出すか、というところに腐心していた。けれど──ここにきて、少しばかり目先を変えてみた。特に目下の関心事である〝親子関係〟を、重要な要素として物語の中に入れてみたのだ。それは正月明けに、一人で広島の母親を訪ねる新幹線の中で考えた物語だった。自分の幼い頃からの記憶と、今になって連絡してきた母のことを取りとめもなく考えているうちに思いついたストーリーに、かねてから考えていたトリックを組み合わせてみると、なぜかピタリとはまって、一つの物語ができた。(あぁ、これは……いけるかもしれないな)思いついた時は、その程度にしか思わなかったが、書き進めるうちに幼い頃の自分の感情