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概要

朱川湊人,主夫のトモロー,家族小説,NHK出版,WEBマガジン,イクメン,斉藤知朗,花まんま,直木賞

5それなりに仕事量が増えるので、アシスタントもつけてもらえる……とのことだった。「やっぱりミッちゃんは、会社でも頼られてるんだね。俺も何だか鼻が高いよ」トモローが興奮気味に言うと、なぜか美智子はすまなそうな顔をした。「それが、そうとばかりも言ってられないの。実はセクション・リーダーになると、お給料が減っちゃうみたいなのよねぇ」「えっ?」そんなバカな……と、トモローは言いかけたが、以前トモローが勤めていた美術出版社の課長も、そんなことを言っていたのを思い出した。役職手当というものがつくにはつくのだが、残業手当がなくなるので、手取り金額そのものは大きく減ってしまうのだ。「……今も残業手当なんて大したことないけど、それでも一応は出ていたでしょ。でも、それが完全になくなっちゃうんだから」つまり、単純に責任と仕事量が増えて、収入そのものは減ってしまうということだ。出世するのも、良し悪しである。「残業手当が丸々なくなるってことは……」毎月見せてもらっている給与明細を思い出し、頭の中で計算してみると──かなりの減額だった。本人は〝大したことない〟なんて言っているが、もともと美智子の仕事は残業が多く、それにつけられていた手当も、けっこうな額だったのだ。「ちょっと待って」