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概要

朱川湊人,主夫のトモロー,家族小説,NHK出版,WEBマガジン,イクメン,斉藤知朗,花まんま,直木賞

7が、とうとう斉藤家にまで届くようになった……ということだ。「前に話したことが、現実味を帯びてきたね」簡単に済みそうな話ではないと悟って、トモローは作成中の文章を保存し、ワープロを閉じた。三か月ほど前の話だが──そろそろトモローも、外に出て働いた方がいいのではないかという話が、二人の間で出たことがある。むろんメグちゃんママと再会して、彼女の起業の夢を聞いたことと無関係ではない。やはりトモローはまだ若いし、何より小説家を志すのなら、いろいろな社会経験を積むのも悪くない……というのが一応の建前のようなものだったが、どちらかと言うと、チーコのことで、ちょっとした気がかりがあったからだ。チーコも二歳半を過ぎ、まさにかわいい盛りなのだが──一人っ子であるために、同じ年頃の子供と、まったくと言っていいほど付き合いがないのだ。兄貴の子供たちとは歳が離れているし、一番気楽に遊べるのは、武井夫妻の息子であるエイちゃんだけだ。もちろんエイちゃんは元気でいい子だが、やはり男女差というのは小さい頃からあるもので、喜ぶ遊びの内容がチーコと違ってきていた。その頃のエイちゃんのハートを掴んでいたのは〝電車〟であったが、チーコはディズニーのアニメに夢中で、その二人を同時に楽しませるものを探すのは、なかなかに骨が折れるのだ。たまに公園で行き会った女の子と遊んだりすると、チーコはとても楽しそうにしていた。