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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

2やたらと遊び回る大学生がマスコミに注目されていた頃なので、きっとすべての大学生がそういう生活をしていると思ってしまったのだろう。当のトモローは、大変だとか遊びたいとか、まったく思わなかった。アルバイトはアルバイトで、十分に楽しかったからだ。別の大学に通う学生と友だちになれたし、実社会が人より先に覗けるのも楽しかった。それで金が稼げるのだから、言うことはない。だから、チーコを保育園に入れて、自分も働きに行くと夫婦会議で決まった時、トモローは?気なものだった。学生時代のように、求人雑誌を開けば、アルバイトなんて選び放題だ……と高を括くくっていた節もある。けれど時代が変わったのか、あるいは学生の立場と主夫の立場は大いに違うのか、こちらの希望に沿った仕事は、皆無と言っても過言ではなかった。何より、労働時間に無理があったのだ。保育園のパンフレットを区役所でもらってきてみたが、保育時間は、朝の八時半から夕方の四時と決められていた。仕事の事情によって、それより早く預かってもらえたり、時間を延ばしたりすることもできるが、できれば、それは避けたい気持ちがある。そうなると──職場へ向かう時間を片道三十分と考えると、九時から三時半までの仕事を探さなければならない、ということだ。おまけにトモローは車の免許を持っていないので、通勤にはバスか電車、あるいは自転車を使うということになる。自ずと通える場所も、限定されてくる。