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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

3ついには、スーパーの品出しやレジ係など、女性限定と書いてある求人にも、トモローは果敢に電話をかけた。「うちが募集しているのは女性のパートさんなので、男性の方は、ご遠慮いただいております」「別に男でもいいんだけど、そんな短い時間じゃあね」印をつけた求人広告に片っ端から電話をしてみたが、多くがそういうリアクションだった。「あんた、いい歳した男のくせに、何をやってるんだい……何が主夫だ。うちの息子だったら、一発ブン殴ってるところだよ」中には、そんなふうに気風のいいことを言う人もいたが、ある意味、男性差別とも言えるのではないか……と思えた。どこの家にもそれぞれの事情があるのに、そういうことを平気で言う人は、誰もが自分と同じように考え、同じように生きていると信じているのだろう。(こりゃ、無理かもしれないなぁ……)育児の間に何十本もの電話をかけ、ことごとく空振りした時点で、遅まきながらトモローは悟った。世の中は、やはり厳しい。かくなる上は、最後の手段──困った時の兄貴頼みだ。そういえば、かつて会社がいきなり潰れた時、兄貴が働いている運送の配送所で、仕事を世話してやる……と言ってくれたこともある。ここはひとつ、それに縋すがってみようか。しかし、一月の終わり頃に相談を持ちかけた時、あまり芳しい返事ではなかった。やはり