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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

6黙り込んでいるトモローに、兄貴は言った。「おまえの言いたいことは、だいたい想像がつくよ……でもな、家庭を持つっていうのは、そういうものだってことだけは、頭に入れとけよな。普通だったら夢だの何だの、甘っちょろいことは言ってらんないんだからな」夢を持つことは、甘っちょろいこと……なんだろうか。「まぁ、すぐには無理だろうから、もう少し考えてみろよ。でも〝次の春からは、絶対にどこかで働く〟っていうことだけは、変えるんじゃないぞ。そうしないと、何も前に進まないからな」兄貴はどこかウンザリとした口調だったが──それが夢を果たそうとすることと、よく似ていることには気づいていないようだった。「それはそうと……おまえ、正月明けに広島に一人で行った時、オフクロに何か言ったのか?」トモローの相談事が一段落してから、兄貴は切り出した。「そりゃあ、『お久しぶりです』くらいのことは言ったけど……何か、言ってきたのかい?」しれっとした口調でトモローは答えたが、実は十分に身に覚えがある。トモローは、初めて会った母親に、兄貴に謝ってほしい……と言ったのだ。残念ながら、自分には母親の記憶がない。赤ん坊の頃は、抱かれたり母乳を飲ませてもらったりしたのだろうが──どうにか記憶ら