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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

8その兄貴を、あなたは深く傷つけた。こんなことなら、今までどおり、会わない方がよかった。あなたは、兄貴の中に残っていた最後の母親まで壊してしまった。けれど兄貴はバカだから、あなたの体のことを心配するだろう。あなたの病気が少しでも良くならないかと、お寺や神社に行ったら必ず手を合わせるだろう。そんな兄貴を、あなたは二回捨てた。自分たちは、あなたの遺産なんかビタ一文欲しいとは思わない。自分たちは自分たちで、それなりに楽しくやってきたからだ。それなのに、あなたはわざわざ兄貴を呼びつけて、そんなつまらないことの念押しをした。そんな仕打ちを受けたら、地元の不良どもに恐れられた〝イナヅマ☆ゴロー〟も、さすがに泣くよ。……というようなことを、トモローは初めて会った母親にぶつけたのだった。その後、自分のホテルに泊まっていくようにという申し出を慇い ん懃ぎんなくらいに断って、広島駅近くのビジネスホテルに泊まった。あくる日は宮島と原爆ドームを見学し、広島風お好み焼きとカキフライをたらふく食べたことは言うまでもない。その道中で、トモローは親子について考えた。そんなことは一瞬たりとも想像したくないが、もしチーコが生まれてすぐに何らかの事情で自分と離ればなれになったとしたら、自分は何十年ぶりかで会ったチーコを、娘だと思うことができるだろうか。あるいはチーコは、ちゃんと自分を父親だと認めてくれるだろうか。(子供の頃なら、できるかもしれないな)きっとチーコが十歳くらいまでなら、それも互いに不可能ではないような気がする。だが