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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

11か」顔に似合わないことを、さらりと武井は言った。「人間は、憎みあうために出会うわけじゃないんッスから」おまけにクサいことを言ったので、トモローは思わず目を丸くした。前に敵対するグループと大ゲンカをしようとしていたのは、どこのどいつだっけ?「武井ちゃん、もう一回、言ってみてよ」イヤな笑いを浮かべつつ言うと、武井は顔を真っ赤にした。「歌の歌詞にあるでしょ、そういうのが」「何の歌かは知らないけど、まぁ、ありそうだね」二人は鮮魚売り場で笑い合い、初めて握手した。 その数日後に武井夫妻はエーちゃんを連れてトモローの家に挨拶に訪れ、翌日、ノリコの実家へと去っていった。短いようで長い、また長いようで短い付き合いだった。人間は、憎みあうために出会うわけじゃない──武井夫妻が去ってから、トモローは時折、その言葉を?みしめることがあった。口に出せば本当にクサい言葉で、何だか首筋がかゆくなってくるような気もするが、それが真実であることは確かだった。いや、真実であると思いたい。それでも母親に対するアクションを何も起こせないまま、トモローは数週間を過ごした。その躊た め躇ら いのようなものを打ち壊したのは、チーコとアイコちゃんだった。