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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

14それが自分の歩み寄りであることがわかるはずだ。それを会社近くのポストから投函すると、返事はすぐに届いた。やはり手書きで、過去を詫びる言葉も、許しを請う言葉もなかった。けれど、今から夏が楽しみで仕方がない……と記してあった。母の文字は丸く、いかにも女性らしいものだったが──それを見るのは初めてではないと、トモローはすぐに気づいた。実家の箪たん笥す の中にしまい込まれていた古い写真の中に、自分が赤ちゃんの頃のものがあって、その裏には「次男 知朗」と書かれていた。その文字は間違いなく、この字だった。たったそれだけのことで、トモローは胸が熱くなるのを感じた。なぜだかはわからないが──本当に、なぜだかはわからないが。トモローの一日は、相変わらず忙しい。朝、家族にご飯を食べさせ、美智子を送り出し、チーコの保育園の連絡帳を書き、支度をして自転車で飛び出す。保育園にチーコを預けて、そのままホームセンターまで疾走し、三時半までバリバリ働く。どうしても男のパートタイマーは力仕事を期待されるので、他の売り場の荷物や商品までガンガン運び、合間に家電売場に立って接客する。エアコンのヒートポンプ式とインバータ式の違いについて説明を求められ、図まで描いて説明する。やがて時間になれば、再び自転車に飛び乗って保育園にお迎えに行き、その帰りにスーパーで買い物