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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

2「へぇ、斎藤さんが子供の面倒を見てるんだ……大変だねぇ」昼休みなどに同僚たちと話していて、半端な勤務時間の話題から、トモローが主夫であるという話に転がることがよくあった。その反応は様々で、「理解がある旦那さんで、奥さんは幸せね」と言う人もいたし、「女房の稼ぎに頼っているなんて、甲斐性がないなぁ」と冗談めかして言う人、さらには「男として情けない」と、正面切って言う人もいた。面白いのは、その意見の違いに、特に年齢が関係なかったことだ。若くても奥さんに代わって家事を取り仕切っているのを「情けない」と言う人もいたし、別の会社で定年を迎え、契約社員として再就職した年代の人の中でも、「今は、男も女も同じように働くのが当り前だからな」と好意的に捉えてくれる人がいた。こういうことに対する考え方は、むしろ年代よりも、生きてきた環境や培ってきた人生観で変わるものなのだろう。もっともトモローは、誰に何と言われようと、今の自分の生活を情けないとも、あるいは進歩的でカッコいいとも思わなかった。もっと言えば、そんなことを考えているヒマはなかった。やらなくてはならないことがテンコ盛りで、一日が恐ろしいスピードで過ぎていくからだ。もちろんチーコと二人で過ごしていた時も忙しかったが、チーコが昼寝している時など、それなりに隙間時間もあった。けれどパートタイマーに、そんなものがあるわけがない。そもそも時給をもらっているのだから、決められた時間以外に息を抜くわけにはいかないのだ。