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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

3また店員として店に立つ以上、人並み以上に家電の知識をつける必要もあった。わからないことがあるたびに、売り場責任者の社員に聞きに行くのも限度があるので、自分で勉強しなければならない。特にメーカーが力を入れている部分を理解するために、トモローはカタログを家に持ち帰って、手が空いた時などに眺めるようにした。(しかし……パートタイマーとは言え、俺が電器屋さんになるとは思わなかったなぁ)ときどき、そんなことを考えて、一人で笑った。思えば人生というものは、案外に行き当たりばったりで変わっていくものだ。今まで特段勉強したわけでもない自分が、店員として家電売場に立つとは、この三ヵ月前には爪の先ほどにも思っていなかった。もし三年前の自分に教えることができたなら、さぞや驚くことだろう。けれど、The show must go on.──とにもかくにも人生は続いて行く。変わったと言えば、チーコもそうだ。馴らし保育の日、去って行くトモローを追いかけて号泣し、ドアに何度も体当たりをしていたチーコだったが──三日ほどかけて保育園で過ごす時間を延ばしていくと、やがて泣かなくなり、一週間もすれば、笑顔で手を振ってトモローを送り出せるようになった。「はい、チサトちゃん、パパに行ってらっしゃいって言おうね」「パパ、行ってらっしゃーい」 保育士さんに抱かれてうれしそうな顔をしているチーコを見ると、一抹の寂しさを感じもしたが、それはワガママというものだ。