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概要

朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

8「本当にすみません。うちの子、少し癇かんが強いところがあって……お友だちを?んだりしちゃダメって、何べんも言ってるんですけど」そう言われてしまうと、こちらも文句を言う気が失せてしまう。きっと、このお母さんも、そのことで気苦労しているのだろう。「いやいや、お互いさまですよ」そんな言葉が、自然と出てきた。トモローの会社、チーコの保育園の他に、もう一つの思いがけない変化があった。それなりに長い付き合いだった武井夫妻が、彼女の実家の近くに引っ越すことになったのだ。「実はノリコの親父さんが、ちょっと具合を悪くしちゃいましてね……どうしても近くにいたいって、あいつが言うんッスよ」それを聞いたのは保育園から帰る途中、買い物に寄ったスーパーの鮮魚売り場だった。何でも武井は、ノリコに言われて特売の刺身を買いに来たらしい。「でも、帰って大丈夫なのかい? 殺されるんじゃなかったっけ?」若い武井夫婦は、駆け落ち同然で家を飛び出してきた。それ以後、まだ十代だったノリコを奪って行った武井だけは許さない、姿を見たら必ず殺す……と、ノリコのお父さんは言っていたらしいが。   「俺もビビッてたんッスけどね……この間、お父さんの病気がわかった時に、思い切って永