鄭大世（チョン・テセ）というサッカー選手が気になり出したのはいつ頃だったろうか。川崎フロンターレでの「人間ブルドーザー」と呼ばれるそのプレーを見て、「こんな選手が日本代表にいたらなあ……こういうスケールのでかい選手は日本の学校やクラブからは生まれないよなあ……」と思ったことを覚えている。サッカーに詳しい人に聞いてみれば、彼自身、朝鮮大学校出身で初のＪ１プレーヤーであり、「韓国籍」でありながら北朝鮮代表であるという。それ以来、彼のプレーぶりやメディアでの発言を気にし、そのいまどき珍しい「男前」振りに惚れると同時、これほど「自分の言葉」を持ったスポーツ選手はいないと感じた。本書には、ワールドカップ南アフリカ大会・対ブラジル戦の国歌斉唱での号泣で世界的にもクローズアップされたこの「男前」のルーツが、「自分の言葉」で存分に綴られている。自身が生まれ育った祖国「日本」、祖父たちの祖国「韓国」、そして“自分たちの学校（ウリハッキョ）”としての祖国「朝鮮」――三つのルーツを背負い戦ってきた、人の三倍濃い人生が200ページに詰っている。いまアジアで一番の「男前」の熱き物語をご堪能あれ。　（ＮＨＫ出版 高井健太郎）