本書では、「財政赤字問題は世代間格差問題である」という視点で次世代へのツケ送り政策を批判してきた小黒一正氏が、「インフレターゲットで増税はしなくてもよい」「内国債だから大丈夫」等の楽観論に対し、ひとつひとつファクトをもって丁寧に反論していくとともに、財政問題のポイントはどこにあるのかをわかりやすく説明します。
小黒氏は元財務官僚ということから、「財務省の代弁者」のごとくいわれることもありますが、かつてリフレ政策を含め、財務省内でさまざまな政策検討を行い提言をしても、政治の決断がなければ物事が前進しないことを痛感し、霞ヶ関を出たと言います。
政策当局側にいては言えないことを、教育や言論の場で自由に発言し、議論の材料を提供することをミッションとする小黒氏のスタンスを明確に打ち出した本書では、官僚時代の自戒を込めつつ、財務省の推計の甘さや予算編成の複雑さを明確に批判するなど、これまでの同氏の著書と比べてもかなり踏み込んだ物言いをしています。氏の、財政の現状への危機感がいかに強いかが伝わってきます。
本書は当初、将来、国の収入を主に支えることになる30代以下の読者にも財政問題の本質を理解してもらえるよう、「財政はどうしてここまで悪くなったの?」「財政破綻ってどういうこと? 人が死んじゃったりするの?」「日本みたいな先進国にして経済大国でも危なくなるなんてこと、あるの?」というような素朴な疑問に答えるような、入門書的な性格で企画していました(本企画の発端である連載、
ジレンマプラス「30代のための財政入門」もあわせてご覧ください)。
そこに行われた10月末のサプライズ追加緩和! さらにこのたびの増税先送り解散を受け、問題意識を先鋭化し「財政ファイナンス」「未来世代へのツケ送り」の是非を問うものに方針を変更し緊急出版しました。とくに最終章で論じられる「シルバー民主主義」の是正策については今後、構造的に避けられない問題でもあり、私自身、政治学者や社会保障の専門家の方々とも多いに議論しながら「フェアな政治とは何か」について引き続き考えていきたいと感じました。
2014年末、私たちはどんな「未来」を選択するのでしょうか。選挙が終わっても、次は予算編成が控えています。報道でよく取り上げられる一般会計だけでなく、複雑でわかりにくい「特別会計」の中身は何なのか、本来なら緊急的に打たれるという建前の「補正予算」にムダはないのか、私たちがチェックして声をあげない限り、国の台所事情がわかりやすく説明されることは期待できません。
そうしたことも含めて、本書がさまざまな議論を慎重に検討するための一材料になれば、担当としても幸甚です。
(NHK出版 福田直子)