オバマ大統領は7月2日、1961年以来半世紀あまり国交を断絶していたキューバと正式に国交を回復すると発表しました。2017年初頭に任期満了となるオバマ大統領にとって、この「冷戦」の終了が最大のレガシー(歴史的遺産)となることは確実です。
2015年は戦後70年ということで、当社を含め(今月のもう一冊『
「聖断」の終戦史』等)さまざまな記念企画が目白押しですが、勝戦国アメリカにとっても、当然、戦後70年です。
第二次大戦敗戦後、ずっとアメリカを通して世界を見、アメリカを手本として民主主義社会を築いてきた日本。当のアメリカにとって「戦後」とはどのようなものだったのでしょうか。
あまりにも近く、大きな存在であるため、日本人のアメリカに対する感情は他国に向かうそれよりも大きくバイアスがかかり、結果、非難にせよ礼賛にせよ評価が極端にはしる傾向があるようです。
アメリカ研究の第一人者、渡辺靖さんはかの国を、文化人類学の基本手法である「フィールドワーク」で研究してきました。特定の視点にとらわれず対象を冷静に観察する態度によって、「貧困大国」「自由主義の盟主」などと単純なレッテル貼りをしていては見えてこない大国の葛藤が浮き彫りになります。それは、自由であるがゆえに格差をゆるし、差別が根強いゆえに人権に敏感で、国際秩序を守るために戦争を続ける大国のジレンマです。
同時に彼の描き出すアメリカには、さまざまな民族や宗教の人たちの血が通っており、史上最大の実験国家にふさわしいダイナミズムが感じられます。
建国以来初の黒人大統領として、就任時すでに自身がレガシーとなってしまったオバマ大統領は、アメリカのジレンマとダイナミズムを体現するリーダーでもあります。オバマ時代とは何だったのか。これからのアメリカと日米関係はどこへ向かうのか。アメリカ社会をさまざまな角度から「フェアに」見つめる渡辺さんの視点を借りて、私たちは意外な「同盟国」の素顔を知り、かの国と私たち自身の戦後民主主義について、より深く理解することができるでしょう。
(NHK出版 福田直子)