TOPICS SPECIAL 浜矩子 グローバル時代に政策は効くのか?——浜矩子氏と考える2013年の日本経済

NHK出版 Webマガジン

国境なき時代の財政政策

財政政策も、やはり国境を越えたヒト・モノ・カネの移動に振り回されています。
 企業は生産コストが最も低くて、利便性が最も高くて、行動が最も制約されず、そして税金を最も払わずに済む場所を求めて立地を動かしていきます。そのような企業行動が、自国から彼らが大挙して「家出」することにつながってしまえば、国の財政はただちに窮地に陥ります。
 なぜかといえば、家出企業は自国内で雇用を生み出しません。彼らが雇用機会をつくり出すのは、家出先の国々においてです。国内の雇用が減った分、雇用対策や失業保険の給付で財政負担は増えます。ところが、家出企業は、多くの場合において自国に対して税金を払いません。そもそも、彼らは家出先の外資優遇税制などに魅力を感じて出ていく場合が多いわけですから、これは当然です。
 かくして、自国企業の家出は、その国の財政状況を確実に悪化させるといっていいでしょう。
 そればかりではありません。グローバル時代においては、政府が公共事業で国内景気を盛り上げようとしても、従来ほどの政策効果が出にくくなっていると考える必要があります。なぜなら、公共事業を受注した大手企業は、下請け作業の発注先として海外の中小企業を選んでしまうかもしれないからです。
 近ごろは、公共事業といえども、採算管理がうるさくなっています。仕事を受けるための入札時にも、安い工事費を提示できる方が有利です。となれば、各種の条件を考慮した結果、受注企業が外資を下請け先にし、さらには外国人労働者を多く雇うというようなこともあるかもしれません。
 そうなれば、一つの公共事業が国内で生み出す経済活動は、従来に比べれば限られたものに留まってしまう場合が出てくるということです。
 このような事態を回避するには、公共事業の受注者に対して外資とのコラボを禁止したり、外国人労働者の活用を認めないなどの措置をとらなければなりません。実際に、公共事業についてはこのような措置がとられる場合があります。
 ですが、これは基本的にWTOのルール違反ですし、いかにも閉鎖的な対応です。それも、国益のためにはやむなし。そのように考えるのか。この辺りが、グローバル時代をそれぞれの国がどう生きるかという問題の勘どころにかかわってくるテーマといえるでしょう。

(終章“「政策」、そしてグローバル時代を考える”より一部抜粋)

 いかがでしたか? 本書ではさらにこの後、為替政策、通商政策の現状分析と提言が続きます。「経済を生かすも殺すも、我々の心意気次第」とは浜さんの言。政権交代を機に、新しい時代の経済政策を一緒に考えていただければ幸いです。

写真 浜矩子
浜矩子(はま・のりこ)
1952年東京都生まれ。同志社大学大学院ビジネス研究科教授。専門はマクロ経済分析、国際経済。一橋大学経済学部卒業後、三菱総合研究所に入社。ロンドン駐在事務所長、経済調査部長などを経て、02年より現職(11年より同研究科長)。歴史と理論に通暁した知的基盤と、長年の調査で鍛えられた分析眼で複雑な経済を明快に読み解く。英BBCや米CNNなどにも出演。 主な著書に『グローバル恐慌』(岩波新書)、『「通貨」を知れば世界が読める』(PHPビジネス新書)、『新・国富論』(文春新書)など多数 。

NHK出版新書 396 超入門・グローバル経済 〜「地球経済」解体新書

浜 矩子 著
【目次】
序 章 地球経済ことはじめ
第一章 「市場」を考える
第二章 「通貨」を考える
第三章 「金融」を考える
第四章 「通商」を考える
終 章 「政策」、そしてグローバル時代を考える

表紙(NHK出版新書 396 超入門・グローバル経済 〜「地球経済」解体新書)
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