TOPICS Interview  綾瀬はるか 大河ドラマ「八重の桜」 山本八重 役

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私がすてきだなと思うのは、八重が「女だてらに鉄砲」ということを自覚しているところです。たとえば、西田敏行さんが演じる西郷頼母(たのも)に、「おなごが鉄砲なぞ学んで、なじょする」と言われたときに、反感を覚えるのではなく、もっともだなと受けとめつつ、「私(わだす)のような者でさえ、お殿様のために働きでぇと思うのです」と答えます。しかも、謹慎中で殿のために働けない佐川官兵衛の心情を思いやり、「お気の毒だ」と頼母に訴えるんです。そういう素直でひたむきなところがすごくいいなと思います。また、お裁縫をしたり、履物をそろえたり、お兄さんの着物をたたんだり、ということが当たり前にできる女性であることも、ドラマはしっかり描いています。

役づくりとしては、会津弁はもちろん、射撃と薙刀(なぎなた)の稽古もしました。薙刀は、部活に参加しているみたいで楽しかったです。射撃は、初回の冒頭シーンからテキパキとした銃さばきを見せる必要があったので、重い銃と格闘しながら構え方や撃ち方を覚えました。今回は、高いところから飛び降りたり、アクションシーンが意外に多いんです。体を動かすのは気持ちいいですし、「やってやる」、と燃えますね(笑)。

序盤の収録は、山本家の家族とのシーンがメインですが、共演者の皆さんとはあっという間に打ち解けて、ロケのあとに食事をご一緒するなど、収録以外でも交流を重ねています。「ありがとなし」とか、「座らんしょ」とか、「さすけね」(「大丈夫」という意味)とか、ふだんの会話で会津弁が出ることもあります。響きがかわいらしくて、場が和むんですよね。

ロケで訪れた会津の土地にも惹かれました。まず、自然の美しさ。そして、人の温かさ。旧藩校の日新館(にっしんかん)を訪ねたときには、ピッと背筋が伸びるような感じを受けました。館内に「年長者の言ふことに背いてはなりませぬ」「虚言を言ふことはなりませぬ」「卑怯な振る舞いをしてはなりませぬ」といった「什の掟」が掲げられていて、その精神をずっと大切に伝えていることに感動しました。時代が変わっても忘れてはいけない教えだと思いますし、ドラマを通してそうしたことを感じていただけたらうれしいですね。

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大河ドラマの主演が決まったと聞いたときは驚きましたが、福島をはじめ、東北の皆さんが喜んでくださるような作品にしたいという話をプロデューサーからうかがって、お芝居を通じてそれができるなら、本当に光栄なことだと思いました。1年をかけてひとりの生涯を演じるのは、私にとって新しい挑戦です。しかも、八重の生きた時代は、長く続いた江戸の世が壊れ、西洋文明が続々と入ってきて、人々の生活が大きく変わっていった時代です。そうした中で、八重は、何があっても「ならぬことはならぬ」というぶれない芯の強さを持ち、その一方で、キリスト教など新しい文化を受け入れていきます。考え方が柔軟なんでしょうね。女子の教育を進める「女紅場(にょこうば)」で教えたり、夫・新島襄と一緒に同志社英学校の設立に奔走したり、日清・日露戦争で看護婦をしたりと、いつも誰か人のために働いているというのも印象的です。レディーファーストという価値観がない時代なので、夫と対等の立場を保った八重のことを「悪妻」と呼ぶ人もいたそうですが、実際は、襄が言ったように「生き方がハンサム」だったのだと思います。八重の愛情の深さやパワフルで前向きな姿を生き生きと描いた山本むつみさんの脚本、その魅力を届けられるように、全力で役に取り組んでいくつもりです。京都にある八重さんのお墓の前でも、そう誓わせていただきました。

いずれ自分を超えた年齢を演じることになりますが、ひとつひとつのシーンを積み重ねていく中でかっこいいハンサムウーマンになれたらいいなと思います。

(『NHK大河ドラマ・ストーリー 八重の桜 前編』より再録)
写真 あやせ はるか
あやせ はるか
1985年生まれ、広島県出身。2000年、第25回ホリプロタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞し、デビュー。01年、ドラマ「金田一少年の事件簿」で女優デビュー。主な出演作に、ドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」「JIN−仁−」「ホタルノヒカリ」、映画「ひみつのアッコちゃん」「おっぱいバレー」「あなたへ」「ICHI」など。大河ドラマは初出演。

NHK大河ドラマ・ストーリー 八重の桜 前編

山本むつみ 作
NHKドラマ制作班 製作協力
NHK出版 編
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