鹿島　宮藤さんはどこまで先を見越して脚本を書いていたんだろう。たとえば、ストーリー展開で、震災で誰かが亡くなるはずだったけど亡くならない筋立てに変わったとか、あったんでしょうか。僕は、誰も亡くならなくてよかったと思う。「多幸感」が視聴者の心に残るような終わり方でよかった。
まるやま　震災のつらさは、ユイの表情が伝えましたよね。大吉と一緒に津波直後の光景を見てしまったとき。あのシーンは、橋本愛さんの役者としての本領を見た気がしました。
──この話題に関連して、観客からこんな意見が……。
〈会場からの意見〉　「ユイが上京するときにナレーションが能年さんから小泉さんに代わり、『ユイが北三陸に戻るつもりだったのか、そのつもりがなかったのか、今となっては誰にもわからない』という内容が語られました。あのナレーションで、ユイが死んでしまうんじゃないかとドキドキして、翌週見てそうじゃなかったのでホッとしました」
鹿島　あれは含みのあるナレーションでしたね。
加藤　わざとそうしたんじゃないでしょうか。
まるやま　演出の妙ですよ。小泉さんのナレーションがうまかったですよね。視聴者を震撼させました。「あまちゃん」のディレクターはホントにすごい。朝ドラは５人のディレクターが週替わりに担当しているんです。「サラリーマンNEO」のディレクターを務めた吉田照幸さんが演出している週はコメディー色が強かったりなど、微妙にカラーの違いを感じて、そこも楽しかった。スピンオフをやるとなったら、誰がディレクターを務めるかということにも注目したいですよね。
鹿島　話はそれますが、僕と加藤さんは、最終週に震災が描かれると勝手に思っていたんですよね。
加藤　そうそう。でも、震災後をあれだけ時間をかけて描いてくれてよかった。
鹿島　僕は、震災が最終週で描かれないとわかったとき、ユイが東京に行くというラストもアリかなと思ったんです。アキと一緒に上京して、上野駅をバックにふたりで最終回を迎えるという……。でも最終回を見て、その考えは東京に住む僕の傲慢だと気づかされた。“きたてつ”が一部復旧した2012年7月1日が東北の人たちにとっていちばん身近な希望で、それこそ最終回にふさわしかったんだって。
加藤　そうですね。私も東京で最終回じゃなくてよかったと思います。
鹿島　僕は、純粋にドラマの展開を楽しみたかったので、ネット情報やソーシャルメディアの書き込みを一切見ないようにしていたんです。で、今一気にそれらに目を通しているんですが、どうやら宮藤さんは「ユイは東京に行かない」と、どこかで発言していたようですね。そういう情報をシャットアウトしていたので、ユイの東京行きを勝手に妄想していました（笑）。
加藤　思い出しましたが、最終回でお座敷列車に春子や鈴鹿さんや太巻さんが乗らなかったこともすばらしかったと思うんです。ラストだからみんなが大集合する展開もあったはずです。でも、それぞれが目の前の仕事に向かい、だからこそ前に進めるんだと感じられる最終回だった。忠兵衛さん（蟹江敬三）も最終回の前に北三陸を出てしまって、漁船の中でお座敷列車の映像を見ていましたよね。
鹿島　あの展開もよかったなぁ。
まるやま　「あまちゃん」の話はホントに尽きませんね。今度プチ鹿島さんを団長に「久慈ツアー」をやりませんか？
鹿島　いいですねぇ。僕はまた久慈に行きたいと思っているんです。加藤さんが行ったら、きっと創作意欲が刺激されると思いますよ。
加藤　「あまちゃん」の景色をナマで見たら、泣いちゃうかも（笑）。でも行きたい！
鹿島　会場の皆さんもぜひ行ってみてください！　今日は長時間おつきあいいただきありがとうございました！