TOPICS トークイベント「あまちゃんを語る会」 プチ鹿島×加藤千恵×謎の、中学生まるやま

NHK出版 Webマガジン

久慈市ではドラマで描かれた景色がそこかしこに

写真3鹿島 先日久慈を訪ねた際には、お座敷列車にも乗ってきました。そのとき車掌を務めてくれた方が、大吉さん(杉本哲太)そのものだったんですよ。見た目も雰囲気もそっくり。(スマホに収めた写真を加藤さんとまるやまさんに見せる)
加藤まるやま ホントですね! 
鹿島 この車掌さんが、マイクでいろいろと説明してくれるんです。「あちらに見えるのは、アキちゃんが種市先輩(福士蒼汰)にふられて泣きながら自転車をこいだ道です」「あちらが、夏ばっぱ(宮本信子)が大漁旗を振って春子やアキを見送った浜です」などと。あと、津波の被害が大きかった場所で3分ほど停車して、「こういう状態だったけど、ここまで復旧しました」ということも話してくれました。
加藤 「あまちゃん」関連の記事などを読むと、三陸鉄道にまつわるエピソードは、宮藤さんがぜひ取り入れたいとおっしゃっていたみたいです。
鹿島 あと、僕が訪ねた日がちょうど「久慈秋まつり」と重なって、それも楽しんできました。
加藤 「ミス北鉄」のユイちゃんを載せた山車が街を練り歩いたあのお祭りの本家本元ですね。
鹿島 人出もあって賑わっているんだけど、どこかのんびりしていて、そのユルさもよかった。「あまちゃん」の世界を堪能してきました。宮藤さんは、「田舎を描きたい、序盤に伝えたいメッセージが詰まっている」と語ったそうです。たしかに僕は、第1週の段階でこのドラマに心奪われた。アキが北三陸の人たちを「かっけー!」とか、食べ物を「うめぇ!」と言うことで、田舎の人は救われたし、東京ではパッとしなかったアキも救われた。自信がなかった人たちが、他人に認めてもらうことで変わっていく。見ていてすごく解放感があった。おふたりはどのシーンが好きですか?
まるやま 夏ばっぱが大漁旗を振って春子やアキを見送るシーンとか。
鹿島 あれはズルい。泣けるに決まっています。あと、僕は、小泉今日子さんと薬師丸ひろ子さんのアイドル時代をリアルタイムで知っているので、ふたりの共演にびっくりした。当時小泉さんは歌番組とかドラマとか出まくってアイドルの王道を行っていた人。薬師丸さんは映画オンリーで、テレビにはほとんど出てこなかった。そのふたりの朝ドラ共演は見ごたえがあった。
まるやま あと、ミズタクのシーンには日本中の女性が“萌え”ていたんじゃないでしょうか。
鹿島 ミズタクは、アキのことを商品として大事にしていたんでしょうか。それとも恋愛感情があったのか……。
まるやま スピンオフで、そこを取りあげるのもいいですよね。アキは誰とくっつくのか。
鹿島 大逆転で、ストーブさんっていうのもありかも。
加藤 最終週で、3組のカップルが一緒に結婚式を挙げましたよね。あの構図が、アキとストーブさん、種市先輩、ミズタクの関係と見事に一致しているのに気づいていました?
鹿島 ん? どういうことですか、それ?
加藤 正宗(尾美としのり)と春子、ストーブさんとアキは、ファン第1号つながり。大吉(杉本哲太)と安部ちゃん(片桐はいり)、種市先輩とアキは、同じ学校の先輩後輩の関係。太巻(古田新太)と鈴鹿さん、ミズタクとアキは、マネージャーとアイドルの関係。
鹿島 ホントだ、加藤さんすごい!
加藤 いえ、わたしもどなたかが書かれていたのをツイッターで読んだだけです(笑)。
──ここで途中休憩。まめぶ汁が観客にも配られた。「NHK公認のレシピで作ったまめぶ汁です!」という「B&B」スタッフの言葉に、笑顔の観客席。

5人のディレクターによる演出もすばらしかった

写真3鹿島 宮藤さんの脚本にどのくらい演出的な味つけがされていたのかも気になりますよね。
まるやま ディレクター陣、いい仕事をしていましたよね。
鹿島 3.11をジオラマで見せた演出とか、すばらしかった。
加藤 アドリブを採用したことが明らかにわかったシーンもありましたね。太巻がアキに演技指導するシーンとか。能年さんも薬師丸さんも素で笑っていましたから。
鹿島 マキタスポーツから聞いた話だけど、アドリブを許してくれる雰囲気が現場にあったみたいです。ミズタクがアキの芝居を見てやるシーンとかも、最後のほうはアドリブっぽかった。
加藤 あのシーンはよかったなぁ。ミズタクには、クールだと思っていたのに意外に熱い人だったというところにやられました。でも、勉さんでも、ブティック今野でも、スピンオフは何を題材にしても面白そう。
鹿島 さて、そろそろ会場からも意見をうかがいましょうか。何かありませんか?
〈会場からの意見〉 「夏ばっぱは、春子が『潮騒のメモリー』を歌っていたことを知っていたんでしょうか。春子がリアスで歌ったときに神妙な顔をしていましたが……。そのへんが語られないまま終わったので、気になっています」
加藤 たしかに気になりますね。親なら声を聞けばわかったんじゃないか、とか……。
鹿島 そこはわからずじまいでしたね。わからずじまいといえば、鈴鹿さんは本当に音痴だったのかどうか。
加藤 それも気になった! でも、栗原ちゃん(安藤玉恵)の赤ちゃんに鈴鹿さんが「だんご3兄弟」を歌って聞かせるシーンで、栗原ちゃんが「おぞましい旋律を聞いた」みたいなことを言ってじゃないですか。もしも音痴じゃないとして、そこまで演技するかな。
鹿島 僕は、鈴鹿さんは音痴だったと解釈しています。それでも本番でうまくやるのがスーパースターなんですよ。あの時代の芸能界は、ひとりが売れた陰に涙をのんだ人が大勢いた。そこに気づかず無邪気に人前に出て魅了するのがスター。その器が鈴鹿さんにはあったと。
加藤 そのことに関連して言うと、私は、アキと小野寺ちゃん(優希美青)が映画のオーディションの最終選考に残ったシーンがすごく印象深い。「自分が受からなくてもうれしいかも」って話していて、結局アキがオーディションに受かって、小野寺ちゃんが、「ホントだ、ちょっとうれしい」とアキに笑いかける。でも、アキが去ったあとの小野寺ちゃんは笑っていなかった。
鹿島 アイドルの野心ですよね。すがすがしいじゃないですか。
加藤 そうなんです。すばらしい描写だと思いました。私は「あまちゃん」を見て感じたことを短歌にして自分のサイトで発表していたのですが、小野寺ちゃんのあのシーンからもひとつの短歌が生まれました。
鹿島 あと、アキは春子の娘だけど、スター性でいえば鈴鹿さんに似ているんですよね。悪意がない太陽のような明るさを持ったふたりが東京で疑似親子を演じた。そして春子とユイは、暗さと怨念を持ったあたりがよく似ている。この4者のクロス関係も実に面白かった。

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