Talks 恩田陸×大里智之 「NHKスペシャル 超常現象 科学者たちの挑戦」出版記念 特別対談〔前編〕

写真 吉高由里子
last updated Apr.16,2014.
 3月22日に放送され、「NHKが超常現象を取り上げた!」と大きな注目を集めた、NHKスペシャル「超常現象 科学者たちの挑戦」。今回は番組の出版化を記念して、NHKスペシャル「超常現象」プロジェクトの制作統括を務めた、大里智之さんと、大里さんと旧知の仲であり、超常現象に興味があるという作家の恩田陸さんによる対談が行われました。
 番組の内容から、古代文明まで多岐に渡ったお話を2回に分けて紹介します。

「NHKスペシャル 超常現象」、番組と書籍のポイントは?

大里 「超常現象」という、ある意味突拍子もないものを扱っているわけですが、大きなテーマの1つに“オカルト排除”というコンセプトがあります。例えば、この番組や書籍の中で取り上げた「生まれ変わり」。この現象を研究している科学者たちも、“昔の人の魂が子どもに乗り移る”とか、“前世が存在する”というような、文字どおりの「生まれ変わり」があると信じて研究しているわけではありません。番組で取り上げたのは、「まるで生まれ変わりかのように見える現象(子どもたちが不思議な記憶を語る)」があるという事実そのものです。
写真1
恩田陸さん
恩田 なるほど。確かに、「偽りの記憶のメカニズムで説明できる」と紹介されていましたね。
大里 そうです。中には、偽りの記憶では説明が難しい事例があることも分かってきましたが、それにしても、科学者たちは、脳科学や遺伝子学、「意識の科学」などを駆使して、合理的に説明できないかと模索しています。つまり、科学者たちは、「生まれ変わり」現象を、いずれは科学的に説明がつく物理現象や自然現象と捉えているんです。その意味で、全くオカルト的なものではありません。ここが重要なポイントですね。
 例えば、人生に悩む人に「あなたの前世に問題がある」と言って不安につけ込み、高額なものを色々と売りつける霊感商法などがあると聞きます。
恩田 「この玉を買えば、あなたの先祖の魂も浄化されますよ」(笑)。
大里 あるいは、今の人生に絶望し、来世での「生まれ変わり」を信じて自殺する人々もいるとか……。
しかし、先ほども言ったように、いわゆる「生まれ変わり」現象は、魂や前世とは無縁の物理現象である可能性が高いのだから、「高額な玉を買っても解決にはならないし、自殺をしても生まれ変われる訳ではない」という風に考えることが大切だと思います。超常現象を、物理現象と捉えて解明に挑む科学者達の姿を通して、そんなことを、番組や書籍から感じていただければありがたいと思っています。
恩田 オカルトの危険性ということであれば、「生まれ変わり」だけではないですよね? 超能力はどうでしょうか。
大里 例えば、「テレパシー」。一般的には、離れた人同士の思いや考えが通じあうということを想像しますが、そうした事実は、確認されていません。番組や書籍で紹介したのは、離れた2人の脳が同期するかのような不思議な現象が報告されているという事実です。この実験を行った科学者たちも、これが即、「テレパシーだ」などとは思っていない。まだまだサンプル数も少なすぎるし、条件設定も変えて実験しなければ、結論は出せないと考えています。
恩田 確かに、科学者たちは「超常現象の存在を立証する」というスタンスでは研究していないですよね。
大里 ええ。当然ながら「人の考えを読む」というような、神がかった力を発揮する超能力者は、存在が確認されていませんし、研究する科学者たちも、そんな人が存在するとは信じていない人が大多数。ここも大前提として重要なところです。
 神がかった力を持つという教祖を信じて、多くの若者がカルト教団に走った不幸な歴史もあります。声を大にして言いたいところなのですが、そんな超能力者は、たぶんいない。
 怪しげな新興宗教にはまり込んでしまう前に、番組に登場する科学者たちの取り組みを通して、もう一度落ち着いて考え直すきっかけとなってくれたら、番組制作者としてこれ以上うれしいことはありません。
恩田 この番組のアイデアを最初に私が聞いたのは、2007年ごろだったでしょうか。「ぜひぜひやってください」と楽しみにしていました。私自身は霊も見たことありませんし、不思議な体験自体もしたことがないんです。でも、「見ない」のだけれど、「あるんじゃないか」とも思っていて。これだけ、たくさんな人が目撃談や体験談を話している。信用できる人が話していたり、周りでも聞くしね。だから「あるんじゃないか」と。さらに、科学的に説明がつくということになれば、楽しみですよね。子どものころから、矢追さんの番組を見ていた世代的には、どうしても色眼鏡で見てしまう部分もありますけどね。
大里 私たちがこの番組で伝えたかったのは、不可思議なものに対して、合理的な答えを求めて、科学で挑んでいくことの大切さです。
 もちろん、先ほども言ったように、オカルト的な超常現象はないと断言できると思うんですが、それを除いても、現代科学で説明できないことは、この世の中にまだまだあると思うんです。なぜなら、科学は進歩の途上にある訳ですから。未来の人々には理解できても、我々には説明不可能な現象があってもおかしくない。1000年先の人類が、今よりどれくらい進んでいるのか。たぶん想像を絶するほどに進歩しているのではないかと思います。だから、今の時代に、分からないことがあるなんて、ある意味当たり前のこと。
 でも、NHKが、この手の話題を取り上げると、どうしても「科学で説明し尽くそう」という方向に行くと思うんですね。もちろん、オカルトをあおり立てる番組よりは、そっちの方が全然いいと思いますがね。でも、そんなに無理して説明しなくても、分からないものは分からないと提示した方が素直じゃないのかという気がしたんですね。
恩田 分からないなら分からないで無理することないのにね(笑)。でも確かに、これまでは、「嘘だ、インチキだ」というのと、「みんなでUFOを呼びましょう」の2つのタイプの番組が多かったです。そういう意味では今回の番組は新鮮でした。

——NHKスペシャルの基となっている、ザ・プレミアム「超常現象」(BSプレミアム、全2回、1月放送)では、「心霊現象」と「超能力」の二つのカテゴリーに、超常現象を分類しています。その理由を教えてください。

大里 これには理由があります。「超心理学」という学問の分野があるのですが、そこでは、「超常現象」の研究テーマが、大きく2つに分かれていると聞いたからです。1つは、“死後生存”の問題、いわゆる「心霊現象」ですね。そしてもう1つは、「超能力」です。 「心霊現象」には幽霊、臨死体験、生まれ変わりなどが含まれます。「超能力」は念力、透視、テレパシーなどですね。UFOとかは別です。あれも「超常現象」と言えると思いますが、ちょっと話は別ですね。今回の番組では、あくまで、「人間」にかかわることを扱うようにしました。だから突き詰めていくと、「人間の本質とはなんぞや」というテーマに行き着くんです。
※超心理学…既知の自然法則では説明できない現象、いわゆる超能力や超常現象の存在の有無や、その仕組みを研究する学問。

 

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