Talks 恩田陸×大里智之 「NHKスペシャル 超常現象 科学者たちの挑戦」出版記念 特別対談〔前編〕

NHK出版 Webマガジン

「記憶」や「思念」は物質か?

——恩田さんは、「生まれ変わり」についてはどうですか?

恩田 「あるんじゃないか」としか言えない(笑)。でも、私も好きでたくさん本を読みましたけど、いろいろな例があって、「どう考えてもそれは説明できないだろう」という場合もあるんですよね。
大里 世界的な天文学者で、「超常現象」の懐疑主義者として有名なカール・セーガンも、まじめに調べてみる価値があると思うものとして、「意識が乱数発生器に影響を及ぼすこと」、「自分に向けられた思考やイメージを受け取ることができること(≒テレパシー)」、「生まれ変わりかのような現象があること」の3つを挙げています。これらの現象については、バリバリの懐疑派である彼が、「真実の可能性がある」と言っています。 おそらく、「生まれ変わり」という言葉がよくないのでしょう。人が「生まれ変わる」なんてことは、きっとない。「意識」や「記憶」といったものが、なんらかのメカニズムで継承されることがあると理解したほうがいいということかもしれない。量子力学で説明しようとしている人もいるし、「遺伝子が記憶を継承する」なんてことを言う人もいます。いずれにしても、実際に前世があったわけじゃないと。
恩田 そうそう、「遺伝子の記憶」というのはある気がする。「芋洗い猿」のエピソードじゃないけど。臓器移植で記憶が引き継がれるというネタの小説もありますしね。本当にあるって言いますよね。
※「芋洗い猿」のエピソード…猿の一頭がイモを洗って食べるようになり、同行動を取る猿の数が例えば100匹を超えたときその行動が群れ全体に広がり、さらに場所を隔てた猿の群れでも突然この行動が見られるようになったという。実際には確認されていない。
大里 脳だけでなく、体も覚えているんですかねぇ。
恩田 清水玲子さんという方の漫画で、『秘密』という作品があるんです。そのなかで、人間が死ぬ直前に、脳の中から記憶を取り出すという話があります。それを科学捜査に使うのだけれど、これも実現可能なんじゃないかと思っちゃいますよね。そう考えていくと、「記憶」は物質なのかも、と。そうすると、「生まれ変わり」が説明つきますけどね。でも分からないなあ。本当に「意識」や「記憶」は難しい。
大里 分からないですよねえ(笑)。不思議だなと思いますね。でも、例えば、デジャブや虫の知らせなら、多くの人が体験することでもありますしね。
恩田 今(2014年3月現在)、六本木にある国立新美術館で、「イメージの力—国立民族学博物館コレクションにさぐる」という企画展をやっているんです。原始キリスト教の祭壇とか、呪術に使われていた人形なども展示されていたのですが、ものすごく怖いんですよ。全身に釘を刺した人形とか。
大里 怖い!
恩田 入り口のところに、仮面がずらっと並んでいるんですが、それがいちばん怖かったなあ。出てくるときに、「何か憑いてくるんじゃないか」と思って、肩を手で払っちゃった(笑)。ああいうのを見ていると、「思念」というものは残るんじゃないかという気はしますよね。付喪神(つくもがみ)状態。本当に使っていた人たちの道具や人形ですから。大丈夫かなって思っちゃいました。
※付喪神…道具や生き物や自然などの依り代に、神や霊魂などが宿ったとされるものの総称。
大里 確かにお守りとか捨てられないですよね。人形とか。そういう感覚はありますよね。
恩田 だから、サイコメトラーとか信じちゃうんだろうなあ。
大里 でも、それをあえて、「そういうことはない!」と言うのが大切だと思いますね。
恩田 夢も不思議ですよね。私が書いた、『夢違』という小説があるんです。夢を映像化して見られるようになっている世界が物語の舞台になっています。夢を心理分析に使ってカウンセリングするというお話なのですが、ちょうど小説を書き終わったときに、在米の日本人科学者が、おぼろげではあるけれど脳活動の映像化に成功したというニュースが届いたんです。あれには驚きましたね。
大里 ありましたね〜。
恩田 いずれは、夢の映像化も成功するんじゃないかなと。「夢」って、本当にその人固有の体験のはずなのに視覚化できるかも、というところが面白いと感じました。
 でも「見えてしまう」のは恐ろしいことでもありますよね。見えてしまうと「事実」になってしまいますから。本だったら、場面や登場人物を、読者が個々に想像しますよね。でもそれが映画になると、みんなのイメージが固定化される。
 夢って人それぞれじゃないですか。「夢を見ない」という人もいれば、モノクロだという人もいるし。でも、カラーで鮮明な夢を皆で見たら、みんな「そういうものとして、夢を見る」のではないかなと。

乱数発生器とももクロ?!

——恩田さんが今回の番組・書籍でいちばん印象に残ったところは?
写真3
火を放たれた巨人像「ザ・マン」(番組より)
恩田 バーニングマンのところですね。
※バーニングマン…アメリカ北西部のネバダ州の砂漠で行われるイベント。参加者は、何もない平原に街を作り上げ、新たに出会った隣人たちと共同生活を営む。イベントのクライマックスでは、街の象徴として、敷地中央に建てられた、巨人像「ザ・マン」に火を放たれ、焼却される。
大里 「ザ・マン」が燃えて、乱数発生器の数値に偏りが発生したと報告されている、あの部分ですね。
※乱数発生器…乱数とは無作為にならんだ数字列のこと。乱数発生器は、0と1が並ぶ乱数を1秒間に数百というスピードで、自動的に作り出す機械。今回の番組や書籍では、人間が意識を強く集中する場所では、この乱数発生器が発生させる数値にごくわずかだか偏りが感じられるとする科学者の研究を取材。
恩田 こないだ、実は国立競技場の、ももクロ(ももいろクローバーZ)ライブに行ってきたんです。これは乱数発生器を置いたほうがいいなと思いました(笑)。ファンの皆さんの「そろい方」がすごかった! フリもそうだし、コール&レスポンスもまったく乱れないんです。国立競技場で、「これ、針振り切れてる!」って思いましたね(笑)。「意識は物質としてあるんだろうな」と感じさせるのに十分なパワー(笑)。
 乱数発生器で言えば、アメリカ同時多発テロのときに、大きな反応があったというエピソードも不思議ですよね。東日本大震災のときも偏りがあったとか。その話がいちばん面白かったかな。他には、本に出ていた、「予知」の実験で「怖い写真を見る“前”に、体温が低下した」という話も興味深かったですね。
大里 私が10年くらい前に、明治大学の石川幹人さんに会いに行ったときに聞いたのが、その話なんです。「予知」と言うより「予感」と言った方がいいかもしれません。その予感実験の話を石川さんがしてくれて、「原因はまだ分からないのだけれども、実験の結果としては捉えられている」とおっしゃっていたのです。そのとき、「へぇ〜!」と思って。そのことが、私の背中を押してくれ、番組を諦めずにできた理由の1つなんです。「予感実験」の話はいろいろな科学者がいろいろな形で実験・追試していて、かなりのケースが確認されているとのことでした。もちろん否定的な見解を持つ科学者が大多数ですけど。でも、そういう現象が本当に捉えられているなら、もっと多くの科学者が検証に乗り出したらおもしろいと思うんです。その結果、合理的な説明ができるかもしれないし、完全に否定されるかもしれない。どちらに転んでも、それが、科学的な成果だと思うんですね。
 「予感」を研究している研究者の中には、これは、何も特別なものではなくて、多くの人に備わっている潜在能力ではないかと考えている人もいるようです。
 例えばですが、いまの自然界にも、不思議な現象は、たくさんありますよね。
無数の鳥の群れがお互いぶつかることなく飛んでいくこととか、サケが生まれた川に戻ってくることとか。どれも仮説はあるけど、よく分かっていない。言えるのは、どうも、動物は未知の能力を兼ね備えているということです。そうだとすれば、同じ動物である人間が、そうした未知の能力をもともと兼ね備えているという考えも、あながち荒唐無稽だとは言い切れない気もするんですね。分かりませんけどね(笑)。一方で、ノストラダムスのような「予言」はないと断言できると思いますが。
※石川幹人…心理学者。明治大学教授。著書に『超心理学 封印された超常現象の科学』などがある。今回の番組にもかかわる。

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