Talks 恩田陸×大里智之 「NHKスペシャル 超常現象 科学者たちの挑戦」出版記念 特別対談〔前編〕

NHK出版 Webマガジン

「超常現象」と心理的要因

恩田 CIAがユリ・ゲラーの「透視能力」を評価していたという話は面白いですよね。
大里 ユリ・ゲラーもまだ元気なんだから、本当に超能力を持っているというのなら、もっと科学の実証実験に付き合ってくれればいいのになあと思うんですけどね。さんざんやって自分はもういいという感じでしょうか。彼自身については正直分からないなあ。ただ、面白いと思ったのは、この本でも紹介していますが、ユリ・ゲラーのやっていることはすべてマジックで再現できるという事実ですね。
写真4
ユリ・ゲラー(番組より)
恩田 「なんでスプーンなの?」ってのは、いつも思いますけど(笑)。ほかのものも曲げてよ(笑)。
大里 今回の取材では、こちらが用意したスプーンではない、自前のスプーンをまず曲げて見せてくれました。なんとも言えないですよね。
恩田 話は変わるけど、『人類はなぜUFOと遭遇するのか』という本を知っていますか。すごく面白い本なんですけど、やはりUFOの出現する数というのは、その時代の社会不安とリンクしているらしいんです。冷戦が始まったりとか、ベトナム戦争が泥沼化したりとか、社会状況が深刻になると、UFOの目撃件数が増えるようです。
大里 心理的要因というのは大きいでしょうね。
恩田 そして陰謀論が根強い(笑)。「アメリカ政府はUFOや宇宙人と接触しているが、それを隠している」とか。70年代のヒッピー全盛のころは、「宇宙人は愛を運んでくるんだ」という言説も多かったようなんですが、90年代になると、「これは陰謀で、宇宙人は地球を破壊しにきたんだ」と変わったそうですよ。
 社会的無意識というものが、日本も同じですけど、アメリカにも色濃く存在しているんでしょうね。

——書籍の第一部で物理学者のスティーブさんが、「人はなぜ幽霊を見るのか」という趣旨の発言をしていました。やはり心理的な要因は大きいんでしょうか。

大里 大きいでしょうね。
恩田 「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」。なんとうまい川柳なんでしょう(笑)。人は見たいものを見る!
大里 個人的には、幽霊はいないんだろうなあと思いますけどね。幽霊はこれだけ研究されていても、科学的に捉えられていないんですよ。だから、人間の脳が生み出しているものと言っても過言ではないのかなあと思います。
恩田 暗くて不気味なところにしか出ないというのは……。昼間、渋谷のスクランブル交差点には、幽霊出なそうですもんね。実は混ざっているのかもしれないけど(笑)。
大里 面白いのは、この番組を作ってから、夜、例えばお墓のような不気味なところに行ってもあまり怖くなくなったんです。「何があっても、今起きたことは科学で解明できるんだ。ただの現象なんだ」と思えば、変な怖さを感じることはなくなりました(笑)。

身近にある、「不可思議な現象」

恩田 私自身は残念だけど、「超常現象」に遭遇したことはない。そういう話は聞くのは好きですけど。個人的に気になるのは、「視線」ですね。絶対に分かるじゃないですか、自分を誰かが見ていると。あれはどうしてなんだろう。
大里 何か研究があるかもしれませんね。
恩田 遠くに見ている人がいても、分かりますよね。「誰か説明して!」っていつも思うんです。ギリシャ時代には、「恋」という現象を説明するというとき、目から何か物質が出ていて、相手の目に入って内臓を刺激するからだと考えられていたらしいんですよ。
大里 なるほどね。
恩田 「目から何か出ている」というのは、意外と芯を突いているかもしれない。
大里 そう考えていくと、いろいろ不思議なことってまだありますね。人を好きになる感情とかね。
恩田 なんでドキドキするかとか。書籍で取り上げられていた、「電話のテレパシー」も実際ありますよね。「ちょうど今電話をかけよう」と思っていたら、相手からかかってくるとか。メール打っているときに、相手からメールが来たりしますもん。
大里 でも、統計学者の人が言うのは、そうではないことのほうが多いのに、それを忘れているだけなんだということですよね。「たまたま一致したことを覚えているから」だと(笑)。
恩田 確かに(笑)。統計ということで言えば、ビッグデータも興味深いですよね。1つ1つは些細な事例であっても、ものすごく数を集めれば、AとB、2つの事象に実は因果関係があることが分かる、とか。ビッグデータのアプローチでも、超常現象についても何か分かるかもしれないんですね。昔と違って、今は母集団をたくさん集められるから。同じ実験をするにしても、膨大なサンプルがあれば、まったく違う仮説が出てくるかもしれないし。
 最近、人工知能について調べていて、自動翻訳機について面白い話を見つけたんです。人工知能で翻訳するものよりも、データを検索するタイプの翻訳機のほうがより正確に訳すことができるそうなんですよ。「こういう字が出てきたら、こういう意味」だとか、「この並べ方だと、こういう意味」だとか、内容に応じて人工知能が翻訳するよりも、データから意味を類推する翻訳機のほうが正確だということを知って、少しショックを受けました。考えて翻訳するんではなく、膨大なサンプル数を集めてデータを検索するコンピュータのほうが強いんです。統計やビッグデータにあたることで、分かる真実もあるはず。「超常現象」についても、体験したという人たちには、彼らにしかない共通項があるかもしれませんよ。
つづく
(この対談は2014年3月22日、NHK出版で行われたものです)
大里智之(おおさと・ともゆき)
1986年NHK入局。NHKスペシャル「四大文明」「ローマ帝国」「失われた文明 インカ・マヤ」「エジプト発掘」「知られざる大英博物館」などの大型シリーズを制作。現在、NHK名古屋放送局制作部長。

写真 おんだ・りく
恩田陸(おんだ・りく) 
1992年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を、06年『ユージニア』で日本推理作家協会賞を、07年『中庭の出来事』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞した。ホラー、SF、ミステリーなど、さまざまなタイプの小説で才能を発揮している。

NHKスペシャル超常現象科学者たちの挑戦

梅原勇樹 苅田章
定価 1,728円 (本体1,600円)
四六判並製・256ページ
幽霊、超能力、生まれ変わり、テレパシーなど超常現象と言われてきた事象は、科学でどこまで説明可能なのか。ノーベル賞受賞者を含む世界各国の科学者たちへの取材の成果を、解明の道筋のドキュメントをまじえて紹介していく。NHKスペシャル、BSプレミアムで放送の、注目の番組が出版化。
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