結婚後のふたりは
ラブラブ夫婦
吉高 ところで、村岡花子さんのご遺族の手元に、夫の儆三(けいぞう)さんと花子さんが交わした何通ものラブレターが大事に残されているんですよね。その内容を拝見して驚きました。
鈴木 衝撃的でしたよね。お互いへの思いが赤裸々に情熱的につづられていた。しかも英語を織り交ぜていたり……。
吉高 しゃれてるんですよね。
鈴木 そうそう。今の男女よりよほどしゃれていて、ロマンチック。「大正浪漫」が恋愛でも花開いていたんだなと、
感動しました。
吉高 あと、まどろっこしい駆け引きをしていないところも印象的でした。今みたいに電話やメールで気軽に連絡がとれないし、いつ何が起こるかわからない時代だから、余計な寄り道をしていられなかったんでしょうね。「思いのすべてを一通入魂」という感じのラブレターでした。
鈴木 本当にそうでした。
吉高 道ならぬ恋でも、惹かれ合う気持ちはどうしようもなかったんでしょうね。ドラマでは、花子が、奥さんのいる人を好きになってしまった自分を責め続ける。英治にプロポーズされて、かよ(黒木華さん)にも背中を押されてようやく自分を許せたけど、それまでは苦しみ抜きました。
鈴木 ラブレターからうかがえるお互いへの正直な思いや〝ラブラブ感〟が描かれるのは、結婚後ですよね。
吉高 英治は本当にいい旦那さん。花子が翻訳の仕事を続けることにも理解があるし。
鈴木 花子の才能に惚れた人だからね。才能のある人を支えてプロデュースすることが、英治の才能ともいえる。尊敬し合える夫婦というのは、僕の理想の夫婦像でもあります。僕が役者として吉高さんを尊敬している気持ちが、英治の気持ちにリンクするしね。
吉高 わぁ、そんなことを言ってもらえるとは……。鈴木さんの優しさが英治の優しさにリンクします(笑)。
鈴木 ふふ(笑)。
吉高 結婚式のシーンも忘れられません。花子と英治の周辺の人たちがほとんど一堂に会した貴重なシーンでした。収録にもたっぷり時間をとって、8、9時間はかけたんじゃないでしょうか。
鈴木 皆が笑いのツボにはまっちゃったときがあったよね。吉高さんがいちばんはまってたけど(笑)。
吉高 あれは、おとう(伊原剛志さん)がセリフと違うおかしなことを言い出したのをきっかけに、おかあ(室井滋さん)や徳まる丸さん(カンニング竹山さん)や武(矢本悠馬さん)のセリフ回しがグダグダになって、朝市(窪田正孝さん)やリンさん(松本明子さん)は笑いをこらえるのが大変で、その様子を見て私もツボにはまっちゃって……(笑)。
鈴木 しかも、カメラはずっと花子の表情をとらえていたんだよね。
吉高 そうそう! 笑いが止まらなくて困った。でも、英治だけは神妙な表情を崩さなかったですよね。
鈴木 (すました顔で)そりゃあ僕は、しっかり役に入り込むタイプなので(笑)。
吉高 ずるいわ〜(笑)。
鈴木 ははは(笑)。でも、甲府の人たちのなごやかな雰囲気が自然ににじみ出るいいシーンになったと思う。
吉高 品のいい村岡のお義父さん(中原丈雄さん)や郁弥さん(町田啓太さん)との雰囲気の違いも出ましたよね。兄やん(賀来賢人さん)はいなかったけれど、あれだけの顔ぶれがそろうのは最初で最後だと思うから、うれしかったです。
蓮子夫婦との意外な
かかわりも面白い
鈴木 結婚した花子と英治が、蓮子さんや龍一君(中島歩さん)と深くかかわっていくところも面白いよね。
吉高 そうそう! それにしても、蓮子さんと龍一さんの恋愛模様は、一視聴者として見ごたえがあったなぁ。男と女が恋に落ちるって、こういうことなんだと生々しいほどに伝わってきました。
鈴木 花子や英治と違って、気持ちにストッパーをかけなかったもんね、あのふたりは。
吉高 いけない恋だとわかっていても、突き進んでいくふたりに圧倒されました。
鈴木 花子と英治は、駆け落ちしたふたりをかくまうんだけど、とにかく花子は蓮子さんのことになると熱い! 英治としては、ちょっとヤキモチですよ。初めての夫婦ゲンカも蓮子さん絡みでしたよね。
吉高 だって蓮子さんは「腹心の友」ですから(笑)。でも、蓮子さんを甲府の安東家に、龍一さんを村岡家にかくまうという展開は意外でした。
鈴木 行方をくらました蓮子さんを捜して伝助さん(吉田鋼太郎さん)が村岡家に乗り込んでくる展開もありました。英治が伝助さんを大声で叱ったり、伝助さんと龍一君のくんずほぐれつの大乱闘を止めたりするくだりは、演じていて面白かったです。
吉高 英治と龍一さんの旦那さん同士の会話も微笑ましかったです。
鈴木 ああ(笑)。生まれてくる子どもの名前をあれこれ考えている龍一君に「悩みますよね」なんて話しかけるシーンはよかったな。あと、花子も蓮子さんも甲府の安東家に行ってしまっている間は龍一君とふたり暮らしで、「風呂沸いてますよ」「あ、お先にどうぞ」なんていう不思議な会話もあった(笑)。
吉高 花子夫婦と蓮子夫婦がこんなにもかかわるとは思っていなかったなぁ。
鈴木 ホントだよね。まさか龍一君におしめの替え方を教えるとは思わなかった(笑)。
さまざまな試練を
乗り越えて、前へ
吉高 ドラマの今後ですが、花子と英治にはかつてないような試練が待っていますよね。そのひとつが、関東大震災。村岡印刷は被災してしまい、混乱の中で再建のメドがいつ立つかもわからない。
鈴木 悲しい出来事ですが、登場人物たちがどう立ち直っていくのかをぜひ見ていただきたいです。兵庫県出身の僕は、阪神・淡路大震災を経験しました。また、東日本大震災があったときは、役者という職業がなんのためにあるんだろうと考えさせられました。その後、東日本大震災からの復興を描く舞台に立って、福島県相馬市の消防団員の役を演じました。そうした経験を通して実感したのは、エンターテインメントが人の心の支えになるということです。
吉高 はい。
鈴木 今回のドラマでは、花子が翻訳した『王子と乞食』の出版という夢が、英治をはじめ花子の周辺の人たちの心の支えとなり、出版された『王子と乞食』は、日本中の子どもたちを喜ばせました。
吉高 本当にそうですね。花子にとっては、夫を支え、子どもを守りたいという気持ちも原動力になったのではないかと思います。ただ、震災の数年後、息子の歩が亡くなるという悲劇もあります。
鈴木 そのあたりは、なんというか……。
吉高 想像したくない。
鈴木 うん。
吉高 でも、絶望的に悲しい出来事があっても、前に進んでいく夫婦の姿が描かれていくのではないでしょうか。
鈴木 僕もそう思います。
吉高 自分が体験していないことを演じるのは難しいですが、やり甲斐もありますよね。
鈴木 僕は、未知の人生を疑似体験できることこそ役者の醍醐味だと思っています。しかも今回は、自分たちよりもずっと上の年齢まで長く演じられる機会。夫婦の歩みを丁寧に演じていきたいですね。
吉高 はい。役の気持ちと向き合い、すてきな夫婦像を描いていけたらと思います。
吉高由里子さん:Hair&Make-up = RYO スタイリング=福田春美(Pinko)
衣裳協力= TARO HORIUCHI (HiRAO INC)、
good guys ( WANDERLUST DISTRIBUTION INC.)
鈴木亮平さん:Hair&Make-up =宮田靖士(VaSO) スタイリング=八木啓紀 衣裳協力= TROVE、HUMIS
了
(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 花子とアン Part2』より再録)