スタジオに戻ってからは、能登の記憶を思い返しながら、毎日、希が成長していく扉がひとつひとつ開いていくのを感じています。精巧なセット、メイク、衣裳、そして、スタッフさんの温かさに助けられています。控え室では共演者同士、他愛のない会話で笑い合ったりして和んでいます。
共演者の皆さんはアドリブが上手で、テストと本番では違う芝居をしてきます。うまく返せないときは悔しいですね(笑)。OKがかかるまでの間も惜しんで、皆さん芝居をやり続けます。特に父親の津村徹役の大泉洋さんは途切れなくしゃべっていますよ(笑)。本番中、ケーキの上の飴細工が少し欠けてしまうハプニングがあったのですが、桶作文役の田中裕子さんがとっさにこぼれた飴を食べる芝居をされて、その役らしい切り抜け方が本当に面白かったんです。田中さんからは他にも刺激を受けました。文さんが息子と向き合うシーンでは、その目の力に圧倒されたんです。希としての文さんへの愛情と、田中さんへの私自身の尊敬の気持ちが押し寄せたのだと思います。
希はコツコツと生きることをモットーにしていますが、それは母の藍子に笑顔でいてもらいたいから。藍子が笑顔でいられるのは、夢ばかり追いかける徹あってこそで、一家を支えるために、希は「私がしっかりしないと」と感じています。「希が少し寂しいのでは?」とも思いますが、そのぶん、希は桶作家の文さんと元治さんに頼ったり、甘えたりしています。津村家と桶作家はひょんなことから生活をともにしますが、まるで本当の家族みたいですね。この出会いの中で、希は忘れていた夢や自分の心の傷に気づき、成長していくんです。
今後、希はどんな恋をするのか……。思いやりを持って向き合い、ときには感情をまっすぐぶつけてケンカしたり、尊敬し合える人と恋をしてほしいです。私よりも希のほうが青春しているので、ドキドキしながら台本を読んでいます。希はパティシエの道に進みますが、スイーツは自分の思いがストレートに届く魔法のようなもの。クリームを絞る動作にも気持ちが表れます。スイーツ作りの練習をしながら、「スイーツは心なんだ」と実感しています。皆さんに、練習から学んだ姿をしっかりお見せしたいですね。
能登のパワーをたくさん発信しながら、産地直送の野菜のように、希の生きている感情≠お届けしたいと思っています。視聴者の皆さんも希とともに歩んでいただけたらうれしいです。
NHK連続テレビ小説 まれ 上
篠﨑絵里子 作
丸山 智 ノベライズ 本体1,300円+税 四六判並製・304ページ 連続テレビ小説「まれ」のノベライズ版。幼い頃、父が破産寸前になり、夜逃げ同然で能登に移り住んだヒロイン・津村希のモットーは、“地道にコツコツ”。夢だったパティシエを目指し、横浜で厳しい修行に励む日々。試練を乗り越えた希はやがて能登で店を開き、故郷の「青い鳥」へと成長する。 |