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インタビュー

『主夫のトモロー』
著者・朱川湊人

最終更新日 2016.6.1

「NHK出版 WEBマガジン」で連載していた「主夫のトモロー」が、同名小説として刊行されました。刊行によせて、著者・朱川湊人さんに執筆の経緯や本作に込めた思いなどをうかがいました。

――本作を執筆しようと思った経緯をお聞かせください。

 担当編集者との打合せの中で、「主夫を主役にした物語にしてはどうか?」という話になりました。実は僕自身、奥さんが外で働き、僕は主夫として家事や育児をしてきた経験があります。いまでもときどき家族の食事を作ったりもしていますが、特に子供たちが小さかった頃のことは、僕の結婚後の人生においてもっとも印象的な時期でした。そこで、物語を考えようと昔のことを思い返しているうちに当時体験した出来事や、感じたことを残したいという気持ちも湧いてきたんです。そういうやりとりがあって、本作に着手するに至りました。
タイトルに「主夫」とありますが、あくまでも主夫の目線から描いた家族小説であり、特に「主夫」を強調したかったわけでも、僕の主夫体験を主張したかったわけでもありません。個人的には「主夫」というあり方を特別視していなくて、そもそも育児は男性・女性関係なく、親として当然のことくらいに当時から考えていました。だから僕は、何の違和感もなく主夫として育児に携われたと思っていますし、当時を思い返すととても楽しんで過ごせました。

――男性が家事や育児をすることの醍醐味とご苦労とはなんでしょうか?

性別によっていかんともしがたい得意、不得意はどうしてもあって、母親と父親それぞれだからこその役割はあります。少し昔の話ですが、実際、僕の子供が小さかった頃、子連れで平日の公園に散歩に出かけると、周囲のお母さんたちに珍しがられました。一日、二日程度のことだったら「育児に協力的な父親」と思えるかもしれませんが、それが毎日のように続けば、後ろ指をさされるような目で見られることもしばしばです。
それは現代でも根強い風潮だと感じています。その原因は、いまだに男性が出世しやすいような前時代的な社会構造が残っていることにあると思います。つまり、女性がその社会の中で活躍しようとする際、どうしても「出産・育児」を理由に不利に扱われてしまうケースが少なくありません。その結果、消去法的に「それなら男性が働いて、女性が育児をすれば」という考えが生じる。そういう旧来の考え方に問題の根本があると思います。
でも、僕にとって主夫生活は本当に楽しかったんです。例えば、子供が初めて立った、初めて言葉を発した、初めて笑った……といったさまざまな“初めて”に立ち会うことができました。子供の成長を間近で常に見届けられるのは、主夫ならではの貴重なチャンスだったと思います。同時に、子供たちとともに自らも父親としてまさに成長していくのを、ひしひしと実感していました。それもまた、大きな経験でした。

――トモローと美智子が目指す「仕事も育児も諦めず、楽しく人生のおいしいところを総取りして笑おう」という生き方に込めた思いとはなんでしょうか?

ニュースなどを見ていて、最近の若い方々の中には結婚にさまざまな条件を求め、それを前提に相手を探しているような印象を受けました。それは、不景気などといった世の中の不安な状況が大きく影響しているのですが、個人的には若いときは先のことを考えず、もっと自分の本心を大切にしたり、もう少し勢いに任せて生きたっていいんじゃないか、くらいに思うんです。結婚もその一つで、「その人が好きだから」とか「その人といると楽しいから」などといった、シンプルな気持ちだけで選んだ相手と人生をともにすることもありなんじゃないかって考えてもらえたら、と思っていたんです。トモローと美智子の生き方に込めたのは、そういった社会状況を踏まえ、他人のためでなく、自分・自分たちのために好きなように生きてほしいという気持ちです。
一方で、まさに「目標は大きく」という発想でもありました。小説として描く世界ですから、希望があっていい。もちろん、その希望が無責任なものでは、荒唐無稽で非現実的な物語になってしまいます。そこで、僕の経験をモチーフにしながら、当時感じたこと、得たことを参考にしたんです。『主夫のトモロー』は、トモローの育児の様子を軸に描いた日常の積み重ねの物語です。小さな世界の日常を静かに描くことで、その一つ一つの言動が深まり、よりリアリティーを滲み出せたのではないかと思います。日常のおかしみ、哀しみ、楽しみのそれぞれを身近に感じてもらえたらうれしいです。

――朱川さんにとって「家族」とはどのような存在でしょうか? 読者へのメッセージとともにお聞かせください。

僕の家族は、子供たちが小さかった頃から互いに何でもおしゃべりし合う間柄で、ありきたりな表現かもしれませんが、「友達みたいな親子」なのかもしれません。尚且つ、子供たちを「家族の一員」としてカウントして、子供だからといって特別扱いは一切していません。だから、多少彼らにとって難しい話題であっても伝え、時には彼らに意見を交わしたりします。それは彼らが小さい頃からそうでした。そういう意味では、僕の家族においては親も子も関係なく等しく接する近しい存在なんです。
 本作は、家族をより身近に、愛すべき存在として感じてもらえるよう、楽しい小説を書いたつもりです。僕の実体験をモチーフにした半自伝的な小説でもあるので、本作を通して、男性が在宅で家事や育児をする生活とはどのようなものかを知ってもらえたらうれしいです。そして、トモローのような生き方や考え方もありなんだ、そう思って世の中のライフスタイルの幅が少しでも広がるきっかけになったら何よりです。

プロフィール

朱川湊人(しゅかわ・みなと)

1963年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務を経て、2002年、「フクロウ男」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。03年、「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短篇賞を受賞。初の著書『都市伝説セピア』が直木賞候補、05年『花まんま』で直木賞受賞。『わたしの宝石』(文藝春秋)、『箱庭旅団シリーズ』(PHP研究所)ほか、著書多数。