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カプリの思い出

 よく言われることだが、いちばん重要なのは見た目でも服装でもなく、靴とバッグである。それが高級かつ一目でわかるブランドものでないこと、さらにはTPOと合っているかどうかを、ホテルマンは、サーブの人たちは、そしてお金持ちたちは一瞬で識別する。

 そこから一回思い切ってはずれてしまえば、相手にはしてもらえないが気楽なものだ。

 私が作家だからと相手もリラックスしていろんな話をしてくれる。仲間内では話せない打ち明け話ばかりだ。

 こういう場所に親しんでいてこういうことを書きたくて書きたくてつい書いちゃって、痛い目にあっちゃったカポーティの気持ち、社交界になんちゃってで出入りしている私には痛いほどわかるのだ。

 イタリアの友達たちと私のヨーロッパのエージェントさんにはなかなかゆっくりと会えないから、カプリで過ごすことができた意外な休日は受賞以上に大きなプレゼントだった。その人たちとカプリに来ることはあったが、いつも日帰りだった。

 カプリの夕方はパーティのはじまる時刻で、いつもどこかでなにかのパーティをやっている。夕方になると異様に着飾った人たちが町にぞろぞろ出てくるのだ。それを見ているだけで面白かった。

 今回ははじめてみんなで泊まりいっしょに受賞式に出たり、カプリでいちばん好きな場所、アナカプリにあるアクセル・ムント邸に散歩に行ったりした。その作家はアナカプリにすばらしい家をたてて静かに一生を過ごしたのだ。彼の見ていた景色を見るとき、私は心強い仲間がいるような、不思議な気持ちにとらわれる。これまでも何回か行ったけれど、まさか自分の子どもを連れてたずねる日がくるとは思わなくて、高台のその家から遠く海をいっしょに眺めて胸がいっぱいになった。子どもは私の愛する友人たちと手をつないで大喜びしてその家でいちばん景色のいいところにある、有名なスフィンクスのおしりをなでていた。

 式はホテルの屋上で美しい夕暮れに行われた。山と海とこぢんまりした夜景に囲まれて、スパークリングワインを飲みながら。親しみのもてるいい式だった。

 受賞の挨拶をしているとき、愛する人たちがいちばん前の席でにこにこしているのを見るのは、どんな大きなトロフィーにもお金にも換えられないすばらしいものである。


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