家事研究の第一人者として、活躍しつづける阿部絢子さん。その「始末のよい」（＝シンプルで合理的な）ライフスタイルは、前向きに潔く生きておられる姿とともに、後輩世代の憧れを集めています。
　本書には、彼女が自身の半生と向き合い、「片付ける」とはどういうことかをとことん問うた結論が書かれています。同居人の協力を得るヒントや、自分の暮らしに即した片付けロードマップの例は書かれていますが、「この通りにすれば、みんなできますよ！」というお仕着せ的ハウツーは書かれていません。
　暮らしを大切にするとは、自分の場合、具体的にどういうことなのか。
　迂遠なようですが、まずそうした根本的な問いから始めなければ、いくらハウツー本を読んだって片付くはずがないからです。だから、ラクではない。だから『覚悟の片付け』なのです。
　意外なことに、若い頃の阿部さんは「ぜんぜん片付けられなかった」そうです。仕事が波に乗り、人付き合いの幅もどんどん広がった30代の頃。人生が充実すればするほど時間はなくなり、モノが膨張していく。「忙しい→とりあえずモノをその辺に置く→ちらかる→探し物が増える→時間のロス→忙しい」の繰り返し。無限に続く「ごちゃごちゃスパイラル」の罠にハマりこんでしまったのです。こうした状況、みなさんにも多かれ少なかれ心当たりがあるのではないでしょうか。とっちらかっているのは、部屋や机じゃなくて、もはや自分だとうすうす気付きながらも、現実から目を逸らしてしまう……。
　「暮らしは人の基盤。暮らしが耕されていないと、いい仕事はできない」。40年にわたって生活をテーマに仕事をしてきた阿部さんの言葉には、尋常ではない説得力があります（この場合の「仕事」は、なにも社会における大きなプロジェクトとか商取引とかばかりでなく、個々の人生における家事や育児や介護という仕事も指しています）。
　人生は有限です。だから阿部さんは、モノと空間と時間をうまく生かし、日々の暮らしがうまく回るシステムをつくることが重要だと説きます。試行錯誤しながら、自分の暮らしに即したシステムをつくりあげていく営みこそが、「片付ける」ということなのです。
　忙しくて片付けられない人、片付かないイライラとサヨナラして楽しく生きていきたい人は、ぜひ覚悟を決めて、阿部式片付けワールドに飛び込んでみてください。
　ちなみに、本書の帯に書いた「つらいけど、必ず変われる！」というキャッチは、本書が提唱するメソッドを実践してみた担当編集者の実感に基づいています。しんどかった、でもやってよかった！
（ＮＨＫ出版　福田直子）