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中国メディア戦争
市場経済とIT化が急速に進む中国では、三億人といわれる中産階級たちがスマホで世界中の情報と商品を手に入れ、スクープやスキャンダルに夢中になり、アリババなどの巨大IT企業を支えている。SARSから天津爆発事故まで社会を揺るがした大事件を織り込みつつ、「中国の報道はプロパガンダ一色」という色眼鏡越しでは見えてこない現代中国のダイナミズムを伝える。
繁華街の電器店、ブティック、レストランに殺到する中国人観光客のみなさん。その購買力、食欲には圧倒されるばかりですが、彼ら彼女らのエネルギッシュな行動の源にあるのは「情報欲」だと、本書を担当して確信しました。
中国のネットユーザーは6億8000万人。スマホでオンラインショッピングやニュースチェックを日常的に行う「中産階級」は日本の総人口の倍ほどもいるといわれます。メッセージアプリで記事を配信するアカウントは1300万!面白い記事に集まる「おひねり」の総額はなんと3億円!
数だけではありません。本書では新聞、雑誌、テレビなどの伝統メディアから最新のスマホアプリまで、さまざまなメディアの10年史が社会の変化や大事件とともに語られますが、当局の情報統制をいかにかいくぐって「真実」を伝えるかに苦心する記者たち、アカウントを消されても消されても発信し続ける市民たち――。日本とは熱量が全然違います。その葛藤はときに深刻でときにユーモラス。つい、感情移入して事の次第を見守ってしまいます。
まるで虫の眼のように細かく複眼的にメディアを観察し続け、中国国内外で活躍する記者などフレッシュな「ネタ元」を豊富に持つ著者ならではの視点を借りれば、社会体制が違うことによって、日本の「常識」では想像もつかない状況があることがよくわかる一方、結局、人間の欲望の根っこは同じだなとも感じられるのです。
本書を一読されれば、中国人ビジネスパートナーが何を考えているか理解が進むだけでなく、街で見かける中国人観光客たちにも、かつてない親近感を抱くようになるでしょう。(NHK出版 福田直子)