インタビュー
最終更新日 2019.03.14
NHK「英会話タイムトライアル」講師 スティーブ・ソレイシィ
なぜ日本人は英語が話せないのか?と聞かれたとき、ちゃんと英語を勉強していないからと返すのは間違いです。日本の人たちは昔から一生懸命英語を勉強してきました。ただし、その学習方法が、英語を話せるようになるやり方とはほど遠いものだっただけです。
これまでの英語の試験は、穴埋め問題や選択問題が主流でした。そのため、テストで正しく答えられるよう、新しい単語や熟語を覚え、アウトプットすることなく、覚えたらまた別の新しいものを覚えていくスタイルが正しい学習方法として定着してしまったのです。
世界の中でも、勤勉で優秀だと言われることの多い日本人が、一生懸命勉強してきたのに全然話せないというのは、何かがおかしいと思いませんか?
岐阜県で英語のアシスタントティーチャーをしていたとき、ある生徒が私に言ったひと言が、その問題の核心をついていました。
「先生、私たちが英語を話せないのは、英語で話す機会がないからです」と。
ああ、それはその通りだと思いました。
『英会話タイムトライアル』は、番組を通して、積極的に自分の口から英語を話すことに重きが置かれています。テキストを見ながら番組を聞き、1つ1つ焦りながら、何とか自分の中から英語を紡ぎ出すのです。実はこのシチュエーションは、外国人と英語で話しているときとなんら変わりません。
よく「パッと口から出てこなかったけれど、英文を見たらわかる」と言う人がいますが、それは、“知っている”だけで“できる”わけではないのです。この2つは似ているようで、まったく違います。日本の英語教育は、“知っている”ことの蓄積に偏りすぎて、簡単なことばや表現でもいいから“話すことができるようになる”ことを後回しにしてきたと言ってもいいでしょう。
正直な話、日本の英語教育というのは、英語で自由に話せる人が増えては困る人たちが考えたんじゃないだろうかと疑ったほどです。
私が見てきた日本の人たちが信じている英語の勉強方法は次のようなものです。
1)英語には、膨大な単語があり、それらをきちんと覚えないといけない。
2)分厚い文法書の大量の項目に沿って学習しないといけない。
3)1)と2)を正しく習得した上で、はじめて話すことができる。
番組では、まず「SPR(エス・ピー・アール)」という、日本語を英語で表現したり、英語での問いかけに対して英語で答えたりするトレーニングがあります。「SPR」とは「瞬発力(Shun Patsu Ryoku)」の頭文字です。
与えられた日本語に対して、口から瞬発的に英語が出てくるようにします。この「SPR」トレーニングは番組内で2回行われるので、1回目はできなくても大丈夫。その後の解説でしっかり覚えて、2回目は時間内にすばやく答えられることを目指します。
英文が思うように出てこず、焦ったり慌てたりする人もいるでしょう。英文を答えるまでの時間が短いと感じるかもしれませんが、実はネイティブにとってはノーマルのスピードか、むしろ遅めに設定しているくらいです。
英語の試験では、問題文に「最もふさわしいものを選べ」という指示があり、答えも1つしかないことになっていますが、実際の会話ではそんなことはありません。ネイティブが話をしているときは、同じ内容のことを、何通りもの表現を使って言っています。つまり、正解はたくさんあるのです。その中から、それぞれ自分に合った表現や、自分の言いやすい表現を選んでいます。ですから、『英会話タイムトライアル』でスピーキングに臨むときは、「英語の答えは1つではない!」ということを意識しておくとよいでしょう。
番組内には 「対話カラオケ」というコーナーもあります。これは「SPR」で学んだいろいろな表現も含めて、模擬会話を通して、実際に英語を口から出す機会を増やすことを狙ったものです。場面設定は決まっていますが、どんなことを話すかは、その人の自由に委ねられています。この練習を重ねることは、漢字を書いて覚えたり、九九を覚えたりするのと同じで、必要なときに必要な表現をさっと言えるようになるためのものです。
『英会話タイムトライアル』を使って、本当に英語が話せるようになるのか?という疑問に対して、私は自信をもってイエスと言えます。
この講座では、こう言われたら、こう返すという返答例のパターンを、自分の耳と口を使って身につけていくのですが、これは覚えるというインプットの作業ではなく、英語を使えるスキルにする作業です。
例えば、2019年の2月号に出てきた「対話カラオケ」のワンシーンを見てみましょう。
温泉地の足湯に入っていたら、隣に座った外国人から声をかけられます。それに対して、あなたが英語で返答します。ここでは、まだ『英会話タイムトライアル』を聞いたことのない一般的な日本の皆さんのパターンを紹介します。
幸い、『英会話タイムトライアル』は若い世代たちから年配の方まで多くの人が受講しているそうです。皆さんの「英語で話したい」という願いをしっかりかなえられるよう、今年度の講座もいろいろ工夫していきます。
例えば、4月号から新しく「10秒チャレンジ in the U.S.」というコーナーを始めます。これは、アメリカで出会った人にマイクを向けて、番組と同じように質問したら、どういう英語が返ってくるのかを紹介するコーナーです。皆さんにはネイティブがどう回答しているのかを参考に、自分でも質問に答えてもらいます。
現地の人に質問すると、大抵の人は日本の皆さんが知っているような簡単な文で自分の意見を伝えようとするということがわかりました。
また、自分の言いたいことを伝えるために、短い文を連続して話していることもポイントです。短い文でもたくさん言うことができれば、もし1文目で発音が悪かったり、文法的に間違いがあったとしても、2文目をすぐに言うことで、自分の言いたかったことが相手に正しく伝わる可能性がぐーんと上がるからです。
つい、短い文よりも、長い文で言えたほうが洗練されていると考えてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。実際のコミュニケーションでは、短い文をいくつもつくって、補足しながら相手に意図が伝わりやすいようにしているのです。このコーナーではネイティブの生の英語を耳にすることで、そういったことを皆さんに体感してもらいたいと思います。
英会話コーチ。国際コミュニケーション博士。BBT 大学教授。アメリカ・フロリダ州出身。スピーキング力育成メソッド(Sentences Per Minute 英文発話率)や英語面接型試験の開発と研究をはじめ、さまざまな英会話教材開発やセミナーを行っている。著書に「英会話なるほど」シリーズ(アルク)、『難しいことはわかりませんが、英語が話せる方法を教えてください!』(文響社)、『NHK CD BOOK 英会話タイムトライアル パッと答える まちなかシンプル英会話』(小社刊)などがある。趣味は旅行、アメリカのプロスポーツ観戦、登山。