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インタビュー

英語ができたら、Hello! WORK
国境なき医師団・広報
谷口 博子さん

基礎英語2 2016年7月号連載

文・取材協力:髙橋和子
写真:編集部

南スーダンで目撃した苦境に置かれた人々

─南スーダンはどのような状況だったのでしょうか?

南スーダンは、長年にわたる内戦の末、2011年にスーダン共和国の南部が分離独立して誕生した新しい国です。MSFはそれ以前からそこで医療援助活動を行っていますが、独立後も政治が安定せず、基礎医療がととのわない状態が続いています。わたしと記者が赴いた国内20数か所のうち3か所の活動地では、紛争による負傷や、カラアザールという感染症、栄養失調に多くの人々が苦しんでいました。そこでは多くの現地スタッフが働いていましたが、彼らも厳しい現実の中にいました。

─厳しい現実、とは?

たとえば、南スーダン出身のある現地スタッフは紛争に巻き込まれ、駆け込んだ国連の避難所も武装集団に襲われて、MSFの活動地に何とかたどり着きました。数日間何も食べずに歩き続け、水たまりの水を服の袖ですくって飲んだそうです。「家族や親せきはバラバラだ。いっしょに逃れた娘は、カラアザールに感染して入院している。こうした人たちの存在を忘れないで」という彼のことばを重く受け止めました。彼は現在、医療の仕事の経験を生かし、MSFで懸命に働いていますが、ほかの現地スタッフも、患者さんも、彼と同じような状況に苦しんでいました。

─ MSFは現在、60か国以上、 400近い地域で活動していますが、そこにも苦しんでいる人たちがたくさんいるのですね。

そのとおりです。MSFのいちばんの理想は、自分たちが活動しなくてもいい世界になること。しかし、現実は理想に逆行しています。たとえば、2014年、エボラ出血熱が未曽有の大流行となりました。MSFは、流行発生直後から流行地域に入りまし たが、人手や設備が追いつかず、患者の受け入れを断らざるをえない場所もありました。アフリカなどにおける栄養失調対策や感染症への対策、シリア内戦が背景となった難民・国内避難民への対応、大地震があったハイチなどにおける自然災害対応においても、人手不足や物資不足の課題に直面することがあります。ひとつの団体でできることには限りがあり、国際社会全体で問題解決にあたる気運が高まってほしいと思います。

─そうした状況に、スタッフたちはどのように対応しているのでしょうか?

1人でも多くの命を救うため、日々格闘しています。現地の活動内容と職種にもよりますが、スタッフの任期は最短で1か月、最長で1年程度で、患者さんの完治や医療体制の整備を見届けられないこともしばしばです。活動地の安全がおびやかされ、患者を残して撤退を余儀なくされる最悪のケースもあります。わたしも含め、多くのスタッフが何らかの無念も抱えて帰ってきますが、スタッフ同士で思いを分かち合い、元気になって退院した患者さんたちの笑顔も心の支えにして、 次の活動へと目を向けています。

1人でも多くの人に救える命があるということを知ってもらいたい

─派遣スタッフには、どのような能力が必要なのでしょうか?

職種ごとの一般的な職能はもちろんのこと、コミュニケーション能力が問われます。さまざまな国の人々との混成チームで活動するので、文化や習慣のちがいを認める柔軟性や、母語なまりの英語を聞き取る力が必要です。なお、日本は国際的に中立的な国と見られているので、MSFの中でも日本人スタッフの活躍の場は広がっています。日本人スタッフの職能の高さ、勤勉さ、調整力などへの評価も非常に高いのです。働きざかりの方だけでなく、会社や病院を定年退職後、キャリアを生かして活躍している方もいるんですよ。

─ MSFの活動資金の約90%は民間からの寄付金ですが、日本の寄付文化について、どのように考えますか?

欧米では、「人道援助への寄付は尊い。誇るべきもの」という意識があり、それが寄付のあと押しになっています。一方、日本では、謙虚な国民性からか、「寄付は人知れずするもの」「寄付を公にして売名行為だと思われたくない」という空気が大きい気がします。そうした意識が少しずつ前向きに変わるといいなと思います。

─顧みられない命の危機を救うために、今後、どのようなことに取り組んでいきたいですか?

ありがたいことに、学校や地域のコミュニティー、企業などから「MSFの活動内容を知りたいので、講演会をしてほしい」「募金活動に協力したい」といったお声が増えていて、そうした支援の輪を広げていけたらと思います。 100人のうち10人でも問題意識を持ってくださったら、その10 人のうち1人でも具体的なアクションを起こしてくださったら、世界のどこかでさらに救える命がある。そう信じています。