国民読書年・おすすめします 声の読書
中田 薫(元NHKアナウンサー)

 小学校高学年を石川県の金沢市で過ごした私は、少年の頃から、源平の戦記に親しみました。小学校の頃、父に買ってもらった世界名作全集、太田黒勝彦の「源平盛衰記」などはボロボロになるまで読んだものです。ついに暗記までするほどになりましたが。それでも活字を追いながら、頭の中で文書を映像と声に変えていくのは楽しいことでした。
 放送の世界に入って「事実を伝える」ことに集中するようになりました。ことばは何より正確でなければなりません。誤りなく伝えること。一方で「表現の深さ」があらたな課題になりました。「朗読」「私の本棚」「劇場中継」とチャレンジを重ねながら、「書き閉じられたもの」をいかに「読み開くか」に没頭しました。その手がかりを「文語体」が与えてくれました。サラリーマンを卒業する日、私は総仕上げとして森鴎外の「舞姫」の朗読を選んだのです。
 日本語の格調をどう声にして伝えていくのか。それがこれからの声の表現にどのように役立つのか。そのことを確認するためにも、幼い頃親しんだ、あの懐かしい「源平盛衰記」を手に入れました。55年ぶりに声を出して数ページを一気に読みました。
 たちまち記憶の彼方にあった多くの名場面が蘇ってきました。文章だけではなく、挿絵もまた活き活きと動きがあって、鏑矢の音、馬蹄の響き、合戦の雄叫びが聞えてくるようです。
 モノクロですから、写真では表現しきれない図版ページ。その絵に想像力をかき立てられ、子どもたちは「要害堅固」「乱杭・逆茂木」「一騎当千」などの言葉を覚え、また和歌にも親しむことができたのです。
 この少年版盛衰記には、文中に十三首の和歌が紹介されています。それを見ていると今さらのように思い至ります。この本こそ、わが言語生活の出発点だったかもしれない、と。
 よく「読書に親しむ」といいます。
 そこで私は「声を出して読む」読書を加えたいのです。
 ことばが日本を創る、私はそう考えています。内容を選び、自分の声で確認しあいながらしっかり読む。そのことは、思っていることを、きちんと伝えあう訓練にもなります。これからの社会のあり方・暮らしのあり方を一緒に考えていく上でも、必ずや良い結果を生むと信じるからです。
 どうか皆さん、時には「声を出して」豊かな息の流れを感じながら、読書のすばらしさを味わってください。
中田 薫

昭和40年アナウンサーとしてNHK入局。「若い広場」、科学番組「クローズアップ」キャスターをはじめ、NHK特集、国会中継、ニュース、朗読、クラッシック音楽を担当。その後、アナウンス室長、NHK放送博物館長などを歴任し、現在は新時代の日本語はなしことばを目指し、「音声表現Bona Vox(ボナボックス)を主宰。日本語の「声の表現」の研究、指導、研修、講演などで活躍。

[閉じる]