じょう・もとほ=スタイリスト。ベルギーで食ともてなしを学び、雑誌や書籍で活躍する。
キッチンや食卓で料理を混ぜたり、すくったり、盛りつけるのに便利な大ぶりのスプーン。 「長年、愛用している大ぶりのスプーンは、十数年前にベトナムで買ったアルミ製のもの。手に収まる短い柄に対して頭の部分は大きく、カーブが浅いのが使いやすさのポイントです。安い値段で純度の低いアルミの金型鋳造でしたが、使い勝手のよさは抜群! でも、もう同じものは手に入らないんですよ」と話す城さん。 「頭の部分のおおらかなカーブはそのままに、柄の部分は強度を上げて、とても手の込んだつくりになっていました」と城さんも絶賛。工房にお邪魔して、制作工程を見せていただくことに。 城さんは鎌田さんのスプーンを使ってみて、和・洋・エスニックと幅広く使えるほか、デザートなどにも向いていると話します。 撮影・竹内章雄/構成&文・海出正子
城さんはいろんなタイプを使ってみましたが、昔、ベトナムで買ったスプーンがいちばん優れていたとか。
そこで、その使いやすさを生かしたスプーンの制作を、金工作家に依頼しました。手づくりのオリジナル作品は、使いやすさはそのままに、より上質で繊細な仕上がりに。
ワンランク上のアルミのスプーンは、洗練された雰囲気が魅力です。
今回、オリジナルの作品を依頼したのは、金工作家の鎌田奈穂さん。鎌田さんは金工作家の長谷川竹次郎さんのもとで修業し、15年ほど前に独立。アルミや銀、真鍮(しんちゅう)を素材にスプーン、ピック、皿、ボウルなどを制作しています。そして試行錯誤すること数か月。新たなデザインのオリジナル作品ができ上がりました。
スプーンの頭の部分はアルミ板をはさみで切り、バーナーで温め、木づちでたたいて微妙なカーブをつくります。「このカーブをつくるのは、手の感覚だけなんです。たたくときの力加減や回数で、角度を調整する感じです」と話す鎌田さん。一本一本微妙に表情が違うのは、手仕事ならではの味わいです。鎌田さんの作品はマットな表面にかすかな“つち目”が残っていて、城さんいわく「しっとりとパールのような光沢が独特の魅力」とか。鎌田さんからは「アルミの表面を曇らせるため、溶ける寸前までバーナーで加熱するんです」というドキドキする苦労話も。柄の部分はアルミ板を細い筒状に曲げ、両端をぴったりと合わせた丈夫なつくり。カシメ止めという手法で、頭の部分にしっかりと取り付けています。
「カーブが浅いのはいいことずくめ。例えば、マーボー豆腐は浅くすくえるから、豆腐がくずれにくいんです。盛りつけのときは料理をやさしくスライドさせる感じなので、盛りやすくてきれいな仕上がりになります。ロールキャベツや具だくさんのカレー、汁けの残る煮込み、豆やひき肉など細かい食材の煮込みや炒め物などに使うと便利ですね。ティラミスやババロア、クリーム系のデザートなどは、大きな器につくって取り分けるのがおすすめ! この時季は家族が集まる機会も多いので、食卓でもきっと盛り上がりますよ」今回紹介した商品
浅いカーブが使いやすい
大ぶりのスプーン