じょう・もとほ=スタイリスト。ベルギーで食ともてなしを学び、雑誌や書籍で活躍する。
ふた付きの小さなつぼがあったら、何を入れたいですか? 梅干し、つくだ煮、塩、砂糖、キャンディーなどなど。 「あるとき、ご飯のお供を入れる器が欲しいなあと思い、以前、古道具屋で買った壺屋焼の小さなつぼに梅干しを入れているのを思い出しました。そうだ! あんな感じのものはないかなと探したら、この小さなつぼを見つけたのです。古道具っぽい素朴さがありながら、黒瑠璃というシックな色合いに今っぽさを感じて、いいなあと思ったのです」と話す城さん。 この小さなつぼをつくっているのは、神奈川県相模原市在住の田谷直子さん。若いときから焼き物に興味があり、大学では陶芸を専攻。食いしん坊だったこともあり、自然と食卓まわりの器をつくるようになったそう。田谷さんの代名詞ともいわれるのが瑠璃釉の器です。色の深さによって黒瑠璃、青瑠璃、うす瑠璃とあるのですが、今回ご紹介する黒瑠璃について田谷さんに伺ってみると、意外な誕生秘話がありました。 この小さなつぼをつくるとき、いちばん苦労するのはふたと本体を合わせたとき、サイズや形に違和感がないようにすることだとか。 「ふたのついた器はとても手間がかかるので、現代作家でつくっている方は案外少ないんですね。田谷さんは使い手の側に立って、日々の暮らしの中で気負わずに使える器をつくっているので、使い勝手は本当にいいですね」と城さん。このつぼには梅干しやつくだ煮、ふりかけ、ちりめんじゃこなど、ご飯のお供を入れているそう。 撮影・竹内章雄/構成&文・海出正子
城さんが見つけた小さなつぼは、おいしいものが大好きな作家が手がけたもの。コロンとした丸いフォルムに温かみがあり、黒瑠璃という深い色合いが魅力です。
「ご飯のお供などを入れて食卓に出してもすてきだし、そのまま冷蔵庫にも入れられるから便利ですね」と城さん。実用性と美しさを兼ね備えた、長く愛用したい器です。
「瑠璃釉は基礎の釉薬に青色の成分を加えてつくるのですが、私は鮮やかな青より渋めの青が好きなので、さらに黒を足してちょっと色を抑えた感じにしています。最初のころはどれくらいの割合で入れたらいいのかわからなくて、あるとき、黒を入れすぎてしまったんです(笑)。そうしたらとても濃い色になったのですが、料理が映える色だったので、それ以来いろんな器に使うようになりました」と田谷さん。
「ろくろをひいて本体とふたをつくってぴったり合わせても、焼いたときの縮み具合で合わなくなることが多いのです。だから1つの本体に対して、ふたは2枚つくるんです」という驚きの苦労話も。こうして一つ一つ丁寧につくられる小さなつぼは、手から生まれるものだけに形が微妙に違っていたり、釉薬の景色もそれぞれ違っていて、それがまたオンリーワンの魅力となっています。
「サイズもちょうどよくて、つくだ煮なら70gくらいの小袋に入ったものが収まる感じです。粗塩を入れたり、紅茶などに添える角砂糖を入れても。何を入れるかは使う人のアイデアしだい。存在感があるので、飾っておいてもいいですね」
今回紹介した商品
黒瑠璃釉の小さなつぼ