NHK出版新書(NS新書)

木村俊介 著『「調べる論」〜しつこさで壁を破った20人』(NHK出版新書)刊行記念トークセッション イベントレポート 木村俊介、安野モヨコを「調べる」。#nsshinsho

イベントレポート 木村俊介、安野モヨコを「調べる」。

2012年11月8日、木村俊介さんの著書 NHK出版新書『「調べる論」〜しつこさで壁を破った20人』刊行を記念して、紀伊國屋書店新宿南店7階の紀伊國屋サザンシアターで、公開インタビュー「木村俊介、安野モヨコを『調べる』」が開催されました。イベントで感じた木村俊介さんの人となりや、現場の雰囲気、学ばせていただくことの多かったその仕事術を、入社1年目の販売部員が「調べ」て、リポートします!

NHK出版新書『「調べる論」〜しつこさで壁を破った20人』(表紙)
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〈聞く〉ブーム到来

写真1 著者
本番前、入念に安野さんの著作の並びを検討する木村さん

 『聞く力』が100万部の大ベストセラーになっている。本書は著者の阿川佐和子さんが二十年間、週刊文春で対談連載されている「この人に会いたい」の経験から発見した阿川佐和子流〈聞く力〉が惜しげもなく披露されており、相手の心をひらいて言葉を引き出すヒントを教えてくれる。日々の仕事上、書店さんを訪問していても、ビジネスシーンや普段の生活の場面でいかに他人の話を聞くことが大切かを訴えたり、またそのノウハウを伝授する書籍や雑誌の特集を多く見かけるようになった。
もはや社会現象として〈聞く力〉が注目されているといっていいかもしれない。そんな中、ここにもまた一風変わった〈聞く極意〉を持った人物がいる。
木村俊介氏、東京大学在学中は立花隆の「調べて書く」ゼミに在籍、その後糸井重里事務所で約7年4か月間活躍したのちに独立、現在は聞き書きを中心とする原稿を執筆する傍ら、インターネットと連動した新しいタイプのニュース番組 NHK「NEWS WEB24」にネットナビゲーターとして出演している。
著書には、『変人 埴谷雄高の肖像』(文藝春秋)、『仕事の話』(文藝春秋)、『物語論』(講談社現代新書)、そして今回出版された『「調べる」論』(NHK出版)などがあり、聞き書きの手法を駆使した様々な作品を展開している、今大注目のインタビュアーだ。

徹底された、聞く準備

 木村俊介さんが今回、公開インタビューに臨んだのは、『シュガシュガルーン』(講談社)、『働きマン』(講談社)や『オチビサン』(朝日新聞出版)などで有名な漫画家の安野モヨコさんだ。安野さんは今回のトークイベントで、90分という短い時間ながらも『働きマン』休載の周辺事情やマンガ観の変化から趣味の話まで、縦横無尽に語ってくださった。
そこでは木村さんのゆったりとしたペースでの会話づくりや、視線を相手から離さず、相槌を何度もうち、「それって面白いですね」と声をかける絶妙なタイミングが際立っていた。そんな会場独特の雰囲気の中では、これまで安野さんが経てきた物語がリアルに伝わってきた。
まず木村さんのインタビュー術で私が注目したのは、話し手に対する配慮の仕方だ。
本番前、安野さんが会場入りするより早く舞台のセッティングを確かめ、壇上にどう安野さんの著書を並べると話しやすいかを熟考したり、主役を引き立たせるために聞き手であるご自身がつけるネクタイの色まで(今回は細身の黒ネクタイ)、配慮されていた。語り手である安野さんにできるだけ快適な環境で自然に会話をしていただくために、木村さんはかなり徹底した下準備を行っていることが伝わってきた。

写真2 安野モヨコの本
客席から見やすいように並べられた安野さんの著作

待つことの効用

 いざ本番が始まると、安野さんが自分の言葉を探している際には、決して相手の返答をせかさず、じっくり考えて出てくる言葉を待って話の流れを作る場面が多々見受けられた。
木村さんは、この“待つ”ということを非常に重要視している。
対談中の「実はじっくり考え込んでから言葉にされたものが面白かったりするんですよね。例えば村上春樹さんは2,3分考えてから答えたりするが、それがまた面白い」という木村さんの言葉にもそれが表れているし、今回出版された著書『「調べる」論』のなかでもこう述べられている。

私はひとりのインタビュアーとしては現場の肉声を、主観的で感情的だからこそ大切に「感情的なまま」に取り扱えたらいいな、と考えているのである。  (『「調べる」論』P.274より)

 木村さんは本当にじっくりと時間を使ってインタビューをされる。質問を投げかけて沈黙が訪れても催促はせず、ゆったり構え、相手の言葉を待つ。大事なことだと分かっていても、なんとなくなおざりにしてしまいがちな〈聞く作法〉を、木村さんはその多彩なインタビュー経験から会得されたのだろう。

 木村さんはインタビューをする際、ただ相手の言葉を待っているのかというと、決してそうではない。
相手が気持ちよく話している場合は、更に盛り上げるために相槌を打ち、「それって面白そうですね」と自分の素直な気持ちを伝える。なかなか言葉が出てこないときは相手を急かさないように、ゆっくりとした相槌を打つ。どうやら木村さんにはいろんな相槌の打ち方があるようで、あ、この人は本当に相手の話を真摯に聞いているのだな、という印象を強く感じさせる。
インタビュー後、本書をもう一度読み返してみると、「相槌」の効用について、こう述べられていることに気付いた。

私があちこちの取材現場でよくわかったことのうちのひとつは「相当な大物であっても、話が目の前の人にも興味深いものかどうかと不安を感じがちである」ということだ。だから、聞くほうが相槌や表情も含めて何を面白がっているかを素直に伝えることは、時には質問以上に話の焦点を合わせ、それなら、と特定の話題をグッと深めるきっかけになるようにも思う。  (同書 P.268より)

 単に相槌を打てばいいのではなく、その時その時の状況に応じてバリエーションを変える。その多彩な相槌を使い分けることで、相手の深いところまでグッと入り込んでいく。これもインタビューにおける文脈を非常に大事にする木村さんならではの、聞く極意である。

木村流「調べる」論

 数々のインタビュー哲学の中で、木村さんが今回のトークで特に強調されていることがあった。それは、「インタビューさせていただいた肌感覚や雰囲気をなるだけリアルに、聞いている人や読者に伝えたい」ということである。
木村さんは、「会話の中で、文章を省いたインタビューは人に対する見方をかなり歪めてしまう可能性がある」ということにとても自覚的だ。確かに、新聞やテレビを見ていても、そこにあったはずの物語が切り取られ、インターネットの「コピペ」のような文脈のちぐはぐさを感じたことがある方は決して少なくないのではないか。

 そこでふとこんな疑問が浮かんできた。
インタビューが持っている、独自の雰囲気、間、緊張感をできるだけリアルにその場に居合わせない人に伝えるのがインタビューの役割だとすれば、1つの物語の大切な文脈を省いてしまう可能性を秘めているインタビューのもつジレンマについて、どうお考えなのだろうか。これは木村さんの〈聞く〉哲学とは何かということにも通じるような気がして、お客様に交じりサイン会の列に並んで、その質問をご本人にぶつけてみた。

 「短くするとどうしてもその中で文脈的にこぼれおちてしまうものがあります。だから僕は今のところ、2通りの方法を取ります。1つは、自分が同意したことをできるだけ拾い集めて短くし、文脈をなるだけくずさないようにしてまとめること。2つ目は相手の方にどこかの段階で全文に近い形で掲載することをお約束してから短くする、ということです」。

 「文脈」を大切にし、インタビューに対して真摯に向き合っている木村さんならではの回答だと思う。また、その口調はゆっくりと確実に言葉を選ぶように、相手の目をしっかり見て答えるものだった。

『「調べる」論』はかく語りき!

 『「調べる」論』には そこまで具体的な〈聞く〉ための方法論が書いてあるわけではない。本書は〈聞く〉ことの連鎖で出来上がっている。各分野のプロフェッショナルが社会で起こっている事柄から色んなことに耳を澄まして自分の物語を紡ぐ。そしてプロフェショナルの物語をインタビュアーである木村さんが〈聞く〉、それを更に読者である私たちが〈聞く〉。
きっと、インタビューの全てが文字にされているわけではないだろう。でも私は、インタビューの場に居合わせた人しか感じることのできないような臨場感、文脈を感じる。そこに木村さんの存在感はない。代わりに、相手の口調、背景、視点、その場の雰囲気を最大限に活かし、臨機応変に相手を立て自分を消してしまうことに自由さを感じている木村流インタビュー術がある。
読めば読むほど、読後の感想は変わる。インタビュー集として、話し手の言葉をそれぞれのリズムに合わせて読んでいると、まるで短編小説のようにも読める。話し手の問題意識に読む焦点を合わせると、ノンフィクション独特の現実味溢れる文章も味わえる。新しい読書体験に出会いたい方には、是非、読んでほしい一冊だ。

(NHK出版 販売部 白川貴浩)

写真5 「調べる論」陳列
トーク終了後は木村さんのサイン会も行われた。紀伊国屋新宿南店のみなさま、ご協力ありがとうございました!

※ 今回のトークイベントで安野モヨコさんがお話になった内容は、木村さんの筆により 「日経プレミアPLUS Vol.3」に収載されています。あわせてお愉しみください。

 

「調べる」論(表紙)NHK出版新書 387
「調べる」論
〜しつこさで壁を破った20人

木村 俊介

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【目次】
第一章 調査取材で、一次資料にあたる
第二章 「世間の誤解」と「現実の状況」の隙間を埋める
第三章 膨大なデータや現実をどう解釈するか
第四章 新しいサービスや市場を開拓する
第五章 自分自身の可能性を調べて発見する
終章 インタビューを使って「調べる」ということ

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